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 2024/03/29 02:59

遠藤航とリバプール、FA杯で見せた四冠の限界「ワタルにも代役が必要だった」


FA杯準々決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦で120分間、延長戦を含む全力を尽くした遠藤航。過密スケジュールの疲れが見え隠れする中、彼は最終まで奮戦した。

FA杯準々決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦で120分間、延長戦を含む全力を尽くした遠藤航。過密スケジュールの疲れが見え隠れする中、彼は最終まで奮戦した。


 リバプールはマンチェスター・ユナイテッドとの宿敵対決に3月17日、FA杯準々決勝で挑んだ。主導権を握ったものの延長の末に逆転負けを喫し、フルタイムを戦い抜いた遠藤航を皮切りに、疲労が次第に限界に達していたメンバーたち。



クロップの最後のシーズン、栄光に包まれないことへの不甘


 英語で用いられる "hate"(ヘイト)という言葉は、実に深みのある感情を表します。日常的には "don’t like"(好きではない)という言い方が適していますが、"hate"には本質的な憎悪のニュアンスが詰まっており、完全に受け付けられない、容認できない事柄に対して使われる言葉です。


 そして、リバプールのファンとマンチェスター・ユナイテッドのファンの関係は、まさに「ヘイト」という単語にふさわしいほどに激しく、絶対的です。


 実に幼稚なほどですし、寛容さを一片も見出すことはできません。これほど頑固な憎悪は、現代の世界から消去されるべきですが、なぜかイングランドのサッカー界ではこれがライバル同士の自然な延長としてあるがままに受け入れられています。


 そしてイングランドのフットボールでは、勝った側は増長し、負けた側は挫けます。美しい敗者はこの地には存在せず、敗戦の結果ゴミ一つ持ち帰る者はいません。大敵との勝利ほど甘美なものはなく、敗北はどんなに辛いか。そして敵の勝ち誇る姿ほど、目に難いものはなし。


 さて、このテーマを展開すれば、いとも簡単にコラムのスペースが尽きてしまうため、ここで筆を置きます。FA杯の日、オールドトラフォードに2時間前に到着すると、こちらの入場ポイントがパーテーションできっちり区切られており、周囲は通常の3倍のセキュリティガードで堅固ながら包囲している光景に、両クラブの関係の微妙さが如実に表れていました。


 サポーターとしては、絶対に負けることのできない試合だったのです。ユナイテッドはCLでの早期敗退に続き、PLでの優勝の夢は消え、来季のヨーロッパへの道も険しくFA杯が最後の望みでした。


 対照的にリバプールは、ケガ人が多くても高いレベルのプレイを維持し、リーグ杯を獲得しており、まだプレミアリーグ優勝とELの可能性を残していました。そう、クロップ監督の有終の美を飾る4冠すら夢でなかったのです。


 憎きリバプールが全ての栄光を手中にし、クロップ監督の最後を飾ることを、底意地の悪いユナイテッドとしては決して認められない。昨シーズンの0-7の屈辱も、まだ脳裏に焼き付いています。


 反面、リバプールサイドからすれば、ユナイテッドに対する7-0という圧勝によって、昨季の不振が帳消しになった。昨年のリーグ戦での対戦では、ユナイテッドは守りに徹しスコアレスドローで引き分け、クロップ監督を苦い笑いに追いやられましたが、勝利の喜びは計り知れなかったのです。


 だから昨年12月17日にアンフィールドで行われた今季のリーグ戦で、ユナイテッドは恥も外聞もなく首をすくめた亀のように守りを固めてスコアレスドローに持ち込み、34本のシュートを放って1ゴールも奪えなかったクロップ監督を苦笑させることになった。



幻と消えた遠藤の約100日ぶりのゴール


前半37分、遠藤がサラーとのコンビプレーからネットを揺らしたが、縦パスを受けたエジプト代表FWの位置がぎりぎりオフサイド。リバプールでの通算3ゴール目は幻と消えた

前半37分、遠藤がサラーとのコンビプレーからネットを揺らしたが、縦パスを受けたエジプト代表FWの位置がぎりぎりオフサイド。リバプールでの通算3ゴール目は幻と消えた


 こうして最近の両軍の戦績も、ただでさえ熱い戦いをさらにヒートアップさせる要因になっていた。特にFA杯しか望みがないユナイテッド側にとっては、このホームで戦う準々決勝はまさしく決戦。週中の欧州戦もなく、打倒リバプールの準備に丸々1週間を費やすこともできて、番狂わせを起こす態勢は整っていた。


 対するリバプールは、2月25日に行われたチェルシーとのリーグ杯決勝で120分の激闘を繰り広げてからわずか3週間で、チェコに遠征したヨーロッパリーグのラウンド・オブ16第1レグを含めて、この試合がなんと7試合目。結果的にこの過密日程が、延長戦までもつれ込んだFA杯準々決勝の結果を大きく左右することになった。


「Obviously today was on and above the edge(明らかに今日は限界を超えてしまった)」


 これが試合直後の会見でクロップ監督が放った第一声だった。


「(アディショナルタイムを含めると)130分の戦いになった。我々にとって本当にタフな試合になった。明らかにユナイテッドの方がスタートで優位に立っていた。それはそうだ、先制したのだから。その後、うちも態勢を立て直して、少しは戦えたが、相手のマークに苦しんだ。しかし前半の終盤になってようやく本来のリズムを取り戻し、本当にいいプレーをした。そうなると2-1逆転も当然だった」


 クロップ監督がそう振り返った通りの前半だった。この試合はFA杯準々決勝ということで、普段のリーグ戦より6000人増やした9000人のリバプール・サポーターの入場を許したが、試合開始と同時にイングランドのクラブチームのスタジアムとしては最大、7万6000の収容人数を誇るオールドトラフォードの6万7000席を埋めたユナイテッド・サポーターが一斉に吠えた。そしてその声援に後押しされるように、レッドデビルズ・イレブンがキックオフ直後からフルスロットルで押し込んできた。


 今季不振とはいえ、ユナイテッドは素晴らしい身体能力を持ち、高いクオリティとスキルも持つ、文字通り高額な選手が各ポジションに並ぶチームである。そんなチームがこの試合に全てをかけて気合いをみなぎらせ、トップスピードでボールを操り、リバプールを自陣に引っ込ませた。


 そしてあっという間に先制点を奪った。個人的にはすさまじい運動量でマン・オブ・ザ・マッチに相応しい活躍をしたと思う19歳FWアレハンドロ・ガルナチョが、左サイドの角度のない位置から右足で放った強烈なシュートはリバプールGKクィービーン・ケレハーが左手でなんとか弾いたが、それがゴール前の浮き玉となり、そこに飛び込んだスコットランド人MFスコット・マクトミネイが右足で押し込んだ。これでオールドトラフォードが蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


 その後、試合は一進一退。しかしリバプールが前半の35分過ぎあたりから、プレースピードが一瞬で切り替わる本来の鋭い攻めを見せ始めた。


 それが最初に実を結んだのが遠藤航の幻のゴールだった。前半37分のことだった。遠藤が相手のクリアボールに飛び込みボールを奪うと、ワンタッチで動かし、前方のモハメド・サラーにパスを送った。そして日本代表主将がそのままペナルティエリア内に走り込むと、エジプト代表FWとのワンツーが決まる形で折り返しのパスが遠藤の足元に収まった。そこで31歳MFは右寄りの位置から右足を巻き込むように振って対角線上にシュートを飛ばすと、ユナイテッドGKアンドレ・オナナがニアに寄ってガラ空きになっていたファーサイドのネットを狙い通りに揺らした。


 ところがアシストしたサラーがわずかにオフサイド。12月3日のフラム戦以来となる遠藤の久々のゴールが惜しくも取り消しとなった。


 しかし、このプレーで気勢が上がったリバプールは前半44分、ユナイテッドMFコビー・メイヌーがシュートをブロックしようとして伸ばした左足にかすかに触れて角度を変える幸運もあったが、ついにアレクシス・マック・アリスターの右足で同点に追いつく。


 すると同アディショナルタイム2分には、右サイドバックで先発したジョー・ゴメスが右サイドの高い位置でユナイテッド主将ブルーノ・フェルナンデスから力強くボールを奪ったプレーを起点にして、ダルウィン・ヌニェスがシュート。このフィニッシュはオナナに左手でセーブされたが、セカンドボールをゴール前にいたエース・サラーが押し込んで2点目をゲット。リバプールがあっという間に逆転に成功した。



延長戦にもつれ込んでスタミナが底をつき…


延長前半に再び勝ち越したものの、その後2点を奪われて敗れたリバプール。この3週間、過密日程をこなしながら厳しい試合を戦ってきた選手たちに、もはや体力は残っていなかった

延長前半に再び勝ち越したものの、その後2点を奪われて敗れたリバプール。この3週間、過密日程をこなしながら厳しい試合を戦ってきた選手たちに、もはや体力は残っていなかった



 後半はリバプールが優勢に試合を進めたと言っていい展開だった。クロップ監督も「例外的なほど素晴らしかった」と話して、セカンドハーフのパフォーマンスを褒めている。しかし「オールドトラフォードでのユナイテッド戦で“ドアを開けたまま”にしてしまい、それが同点弾を呼び込んだ」と続けて、3点目を奪えなかったことが勝負を分けたと悔やんだ。


 本当に一瞬の隙を突かれた同点弾だった。試合も終盤の終盤となった後半42分。ユナイテッドが攻め上がり、ガルナチョのシュートはスライディングしたハーヴェイ・エリオットがブロックしたが、そのこぼれ球を途中出場のFWアントニーがゴール前で拾い、見事なターンを決めて右足でシュート。これがリバプール・ゴールの右隅に決まった。


 この同点弾が決まる2分前の後半40分、ユナイテッドのテン・ハグ監督はセンターバックのラファエル・ヴァランに代えて21歳FWアマド・ディアロを送り出し、トーナメント戦ならではの執念の采配を見せていた。


 これで延長戦にもつれ込んだ。こうなると、クロップ監督も「正直苦しんだ」と認めたように、過密日程で消耗していたリバプールのイレブンのスタミナが底をついたのも仕方がなかった。


 延長戦前半15分にエリオットが左足で放ったミドルがクリスティアン・エリクセンの右足に当たって、マック・アリスターの同点弾と同じく、シュートの角度が変わったことでまたもや幸運なゴールとなり、リバプールが3-2と勝ち越した。しかし、選手の足が止まり始めてしまうと、1週間の準備期間があり、ホームの歓声に押されたユナイテッドの波状攻撃に耐えることは至難の業だった。


 そしてこの試合、2度の決定機を外していたマーカス・ラシュフォードが、3度目の正直とばかりに、延長戦後半7分に3-3とする同点弾を決めると、ディアロがアディショナルタイム1分にこの試合の7ゴール目となるユナイテッドの4点目を奪い、ホームチームがウェンブリーで行われる準決勝の切符を手に入れた。


 ちなみにテン・ハグ監督は、延長戦でもセンターバックのヴィクトル・リンデロフに代えて、攻撃的MFのメイソン・マウントを投入。ピッチ上に残った本職のDFは途中出場のハリー・マグワイアとサイドバックのディオゴ・ダロだけという捨て身の布陣で逆転にかけていた。



さすがのクロップ監督も声を荒げて


試合後、クロップ監督はメディアを前に、延長戦に及んだ激闘を戦い抜いた選手たちを気遣った。その席上、テレビリポーターの的外れな質問にキレる場面も

試合後、クロップ監督はメディアを前に、延長戦に及んだ激闘を戦い抜いた選手たちを気遣った。その席上、テレビリポーターの的外れな質問にキレる場面も


「ここまで我々は多くの試合をこなしていた。マカ(マック・アリスター)もワタル(遠藤)もダルウィン(ヌニェス)もジョーイ(ゴメス)も交代が必要だった」


 クロップ監督はまさかの延長戦突入で、交代策が尽きて疲労困憊となり、ボロボロになったレギュラー陣をそう言って慰めるしかなかった。


 またこれは同日英メディア上で大きなニュースになったが、デンマークのテレビリポーターから「今日の試合の終盤でリバプールの特徴的な高いインテンシティが消えた理由は?」と質問されて、クロップ監督が「なんて馬鹿げた質問だ!」とキレた。


 120分間のリーグ杯決勝を含めて、22日間で7試合を戦った。そのなかにはマンチェスター・シティとの頂上対決もあり、後半アディショナルタイムの最終分で決勝ゴールを奪ったきついアウェーのノッティンガム・フォレスト戦もあった。チェコで木曜日夜の試合を戦えば、リバプールに帰って来るのは翌日の朝方になる。


 そんな厳しい3週間を過ごして、捨て身になった国内最大のライバルとのアウェーのカップ戦を120分間戦って敗れた。その敗戦直後に「インテンシティの欠如の原因は?」と聞かれて、さすがのクロップ監督も声を荒げてしまったのである。


 アウェーでの120分の激闘後、遠藤を待ったが、やはりこんな精魂尽き果てるような試合の後に我々の質問を受ける気力は残っていなかったのか、日本代表主将が取材に対応するミックスゾーンに姿を現すことはなかった。


 残念ではあったが、リバプールの選手団が全員バスに乗り込んだことを確認してからピッチ脇を通って記者室へ戻ると、試合が終わって約1時間が経過していたというのに「You’ll Never Walk Alone」の大合唱が聞こえた。


 スタンドを見上げると、この時点でも足止めされ、アウェー席を満杯にしたままのリバプール・サポーターがいた。


 これもスタジアム周辺で、犬猿の仲であるユナイテッド・サポーターとの衝突を避けるための配慮だった。