オンラインカジノ おすすめ カジノ無料ゲーム 入金不要ボーナス 最新
 2024/03/29 01:55

「サッカーIQ」とは何か? 林陵平氏が語る「考える力」の真髄


サッカー解説者に転身した元Jリーガー、林陵平氏が考える「サッカーIQ」とは? マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネやバルセロナのイルカイ・ギュンドアンなど、頭脳派プレーヤーの例を挙げて語る。

サッカー解説者に転身した元Jリーガー、林陵平氏が考える「サッカーIQ」とは? マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネやバルセロナのイルカイ・ギュンドアンなど、頭脳派プレーヤーの例を挙げて語る。


 フィールド上で「頭がいい」とされる選手は一体どのような特徴を持つのでしょう? サッカーの戦術が複雑化していく中で求められている「サッカーIQ」という概念は、数字では計り知れない価値があるとされています。正確な戦術分析で知られる元Jリーガー、現在は解説者として活躍する林陵平氏に、この「考える力」とは何かについて話を聞きました。東京大学サッカー部の監督も務める理論派が、非凡な判断力の重要性を述べます。



サッカーにおいて賢さだけでは不十分



「サッカーIQ」とは一言で言うなら、どのような選手を指しますか?


 言葉にするのは挑戦です(笑)。定義しようとすれば、「フィールド上で瞬時に適切なポジションを取り、可能な選択肢の中からベストな行動をする能力を持つ選手」といえるかもしれません。



具体的にどのような選手が思い当たりますか?


 例を挙げるなら、マンチェスター・シティのベルナルド・シウバやバルセロナのイルカイ・ギュンドアンのような選手です。ごく短い時間内で相手の動きに応じたベストな立ち位置を取ることができる彼らからは、「頭がいいな」と感じるものがあります。



「サッカーIQの高さ」は「戦術理解度の高さ」と同じですか?


 チームの方針や監督の意図を把握することは基本中の基本ですが、サッカーは相手との駆け引きが求められるスポーツですから、その対応力がIQの真価を問われる部分です。相手の特徴を封じられた状況でも、さらなるアクションでプラスアルファを示せる選手こそが、サッカーIQが高いと言えるでしょう。


 もちろん、現代のサッカーでは高度なアスリート能力が必要不可欠です。したがってスピードやパワー、敏捷性といった身体的な要素が求められます。



技術と知能だけではトップレベルでは通用しませんか?


 その通りです。90年代の「ファンタジスタ」のようなプレーヤーが減少しているのは、フットボール選手の肉体的能力が顕著に増大しているためです。攻守の移行が迅速になり、プレーする時間とスペースが狭まってしまいました。現代サッカーでは単に走れなければ、また球際の争いに強くなければ、生き残れないのです。



激しい動きの中で瞬時に正しい判断を下し、最善のプレーを選ぶ必要がありますね。


 本当に難しいと言えますね(笑)。トップレベルで通用する選手は限られてきていると感じられます。



現役時代、または対戦した選手の中で「この人は賢い」と感じた選手は?


 川崎フロンターレの中村憲剛さんです。彼はまさに考えながらプレーをしていると感じられました。試合状況やスコアで求められるプレーは変わりますが、中村さんはその判断が常に正確で、自分のポジション調整だけでなく、チームに対してプレーの速度を上げるような指示や、相手のプレッシャーに対応する立ち位置などのアドバイスもしていました。


 頭のいい選手って、共通してそうした“発信力”を持っているんです。考えながらプレーしていないと、仲間に指示なんて出せませんから。そうやってチームを動かせるという意味では、現日本代表の守田(英正)選手もサッカーIQが高いと言えるでしょうね。



代表で守田選手とボランチでコンビを組む遠藤航選手はどうですか?


 もちろん賢さというか、考える力がなければ、リバプールのようなビッグクラブでレギュラーを張れるはずもありません。(ユルゲン・)クロップ監督に求められることを理解し、チームメイトに求められることも理解しながら、その中で自分の特徴をどう生かすかも考えてプレーしている。移籍1年目で、さほど時間もかからずにチームにフィットできたのも、理解力の高さゆえ。そう考えると、サッカーIQの高い選手はおしなべて適応能力も高いと言えるでしょうね。



戦術理解力よりも大切なのは状況判断力


移籍1年目でリバプールに素早くフィットし、クロップ監督の戦術的要求に応えている遠藤航。サッカーIQの高い選手は、おしなべて適応能力も高いようだ

移籍1年目でリバプールに素早くフィットし、クロップ監督の戦術的要求に応えている遠藤航。サッカーIQの高い選手は、おしなべて適応能力も高いようだ



この選手に、もう少し賢さがあれば、もっと大成できたのに……と思う選手はいますか?


 そんな失礼なことは言えませんよ(苦笑)。ただ、仮に考える力がなくても、なかにはセンスだけでプレーできてしまう選手もいるんです。もちろん、先ほども言ったように高いアスリート能力が備わっていることが前提ですが、そこがサッカーの面白いところでもあって。全員が全員、試合中に細かく立ち位置を考えているわけでもないし、特別にサッカーIQが高いわけでもないけれど、感覚やセンスだけで問題を解決できてしまう選手もいるんです。



林さんが解説されたラ・リーガ第23節のマドリード・ダービーは、90分間で両者のシステムや配置が目まぐるしく変化する試合になりました。さすがにああいった戦術レベルの高い試合では、常に頭をフル回転させていないと対応が難しいのでは?


 確かにそうかもしれませんが……プレー中の選手って、戦術的な部分はそこまで考えていないんです。むしろ瞬間、瞬間の感覚で判断し、プレーしていることのほうが多い。特にセンターフォワードの選手なんかは、相手のセンターバックとの駆け引きに神経をすり減らして、戦術についてはそれほど意識していないと思うんです。


 もちろん、チームとゲームをコントロールする役割を担うセントラルミッドフィルダーなどは、戦術的なことを頭に入れながらプレーしているでしょうが、すべての選手がそういうわけではありません。それよりも、今チームが必要としているものを瞬時に理解し、最適な判断を下せる、いわゆる“気の利く選手”が、すなわち頭のいい選手と言えるのかもしれませんね。



つまりサッカーIQを構成する要素で言うと、「戦術理解力」よりも「状況判断力」の方が大きなパーセンテージを占めると?


 そう思いますね。最初にも言いましたが、サッカーとは相手のあるスポーツで、状況は刻一刻と変わっていくものですから、戦術を理解する能力がどんなに高くても、変化に対応できなければその価値も半減してしまいます。



林さんは現役引退後、東京大学のサッカー部で約3年間(21年1月~23年10月)、監督を務められました。プロとアマチュアで、“賢さ”の基準に大きな差があると感じましたか?


 そんなことはありません。東大の選手たちはものすごく考えながらプレーしているし、分析力や戦術理解力はプロにも引けを取りません。でも、サッカーってそれだけでは成り立たなくて、むしろ技術やフィジカルがそれを上回るわけです。結局、正しいポジションを取ってもパスがズレたり、トラップがきちんと止まらなかったりしたら話になりませんから。プロのほうが賢いとは一概には言えませんが、頭のいい選手が揃っていれば強いチームができるってことでもない。それもサッカーの面白さですね。



スポーツ推薦ではなく、一般受験を勝ち抜いて日本の最高学府に入学した選手たちですから、いわゆる“地頭”はいいんでしょうね。


 それは間違いなく(笑)。ただ、理論が先走るというか、机上の空論が少なくないんです。立ち位置にこだわるのはいいんですが、特にスペースがない中では、それよりも味方に正確にパスを届け、トラップをきちんと止められることの方が大事になるんです。だから、もっと技術的なところを突き詰めないと、レベルは上がらないよっていうのは常に感じていましたね。



逆に言うと、技術レベルがなかなか上がっていかないから、どうしても理論が先行してしまう?


 そうとも言えますね。そこは難しいところなんです。自分たちは上手くないから、立ち位置にこだわりましょうという考え方も分かるし、それよりも前に技術レベルやアスリート能力を上げるべきだという考え方もできますから。



そのジレンマも、言ってしまえばアマチュアだから?


 そうですね。プロはすでに個々の能力値が高いので、ピッチに11人を立たせれば、それだけである程度はやれてしまう。ただ、だからこそ、監督の戦術というものが必要だと思うんです。具体的な戦い方を提示できれば、選手たちの能力もより引き出せますからね。



明確な戦術のベースがないと、選手が自分で判断しなくてはならない部分が大きくなりすぎる?


 それも重要なんですよ。ピッチに立つのは監督じゃなくて選手なんですから。だけど、同じくらいのレベルのチーム同士が戦えば、そこで差を生むのが戦術でもあるわけです。4-4-2と3-4-2-1だと立ち位置は全然違うし、それを理解させた上で、相手がこう来たらこう剥がしましょうといった約束事を選手たちに伝えておく。それだけでやるべきことが整理されるし、結果的に判断のスピードも速くなるんです。



「賢さ=状況判断の速さ」と捉えるなら、選手の賢さを引き出すのは監督の戦術と言えるのかもしれませんね。


組織があるからこそ、個が生きる。個の能力だけでもある程度まではできますが、限界はありますからね。



東大を指導してサッカーの見方が変わった


現役引退後の21年1月から約3年にわたって東大サッカー部の監督を務めた経験が、林氏の解説者としての視野を広げた。「木ではなく森を見られるようになった」と語る

現役引退後の21年1月から約3年にわたって東大サッカー部の監督を務めた経験が、林氏の解説者としての視野を広げた。「木ではなく森を見られるようになった」と語る



では、サッカーIQとは鍛えられるものなんでしょうか? サッカーにおける賢さとは、持って生まれたものでもあるんですか?


 それって、さっきのサッカーセンスの話につながると思うんですが、たとえ戦術理解力に乏しくても、今、何をすべきかという瞬時の判断は、元々のセンスで補える部分がやはりあると思うんです。加えて、小さい頃から戦術的なトレーニングを積んでいれば、戦術理解力も伸びる可能性があるでしょう。


 ただ、教えてもできない選手もいるし、教えれば教えるだけ伸びる選手もいる。それは勉強でもなんでも同じだと思います。



学校の勉強ができる東大生であっても、サッカーの賢さが身に付かない選手もいるんですね。


 いますね。ただ僕自身、学校の勉強ができるのとサッカーにおける頭の良さはまったく違うものだと思っていたので、そこに驚きはありませんでした。逆に(偏差値的に)日本のトップの学生たちを見させていただいて、あらためて確認できた部分が大きかったですね。



東大サッカー部では、どんな風にして学生たちのサッカーIQを鍛えたんですか?


 個々のIQを上げるというより、まずはチームとして、サッカーの4局面(攻撃→攻から守への切り替え→守備→守から攻への切り替え)においてやるべきことをはっきりさせました。例えば、自分たちが3-4-2-1で相手が4-4-2なら、3センターバックの両脇がフリーになるから、3対2の数的優位を作ってボールを運ぼうとか、そこで相手の2ボランチが自分たちの2ボランチに食い付いてきたら、シャドーがボールを受けに行こうとか、そういったことを練習やボードを使いながら伝えてあげる。そうすると選手たちの頭の中も整理されるんです。


 ただ、そこでさらに戦術を突き詰めようとして、机上の空論的なことになってしまうケースも出てくるんですけどね(苦笑)。サッカーって、絶対にボードで動かす通りにはならないし、上から見た絵と実際にボールを持った時に見える絵も全然違いますから。そうしたズレを埋めるのが、一瞬の判断力であり、すなわちサッカーにおける賢さだと思うんです。



的確な戦術分析で、解説者として人気を博す林さんですが、現役時代からサッカーを戦術的に見られていたんですか?


 いえ、現役時代はどちらかと言えば感覚でプレーするタイプでした。もちろん、この場面ではここにポジションを取ろうとか、考えながらプレーしていたし、「クレバーな選手」と言っていただくこともありましたが、でもそれは戦術的な判断というよりも、あくまでも感覚でやっていたにすぎないんです。



それがどうして、今や戦術解説の第一人者と呼ばれるまでになれたんですか?


 とにかく勉強しましたし、戦術に対して先進的に取り組む東大の監督をやらせてもらったのも大きかったです。スポーツ推薦などがある大学と同じリーグを戦う上で、どうしても技術で引けを取る部分を、戦術で補わなくてはならない東大の監督を任されたことで、それまでどちらかと言うと「木」ばかり見ていた自分が、「森」、つまりサッカーの構造の部分を俯瞰して見られるようになった。サッカーの見方がガラッと変わりましたね。


 ただ、もちろんサッカーは戦術やシステムだけじゃないってことも、理解しています。球際の攻防や切り替えのスピード、もともとサッカーが持つそういった醍醐味があった上での戦術ということも忘れずに、バランスの取れた解説をしようと心掛けています。



選手の賢さを引き出す監督の戦術と指導力


賢い選手は優秀な監督のもとでさらに輝きを増す。ブライトンで“タクティシャン”デ・ゼルビ監督の指導を受け、三笘の判断力も研ぎ澄まされた

賢い選手は優秀な監督のもとでさらに輝きを増す。ブライトンで“タクティシャン”デ・ゼルビ監督の指導を受け、三笘の判断力も研ぎ澄まされた



現代サッカーはかなり戦術が緻密になっていますが、今後さらに先鋭化されていくと、頭のいい選手しか生き残れない時代もやって来るかもしれませんね。


 いや、そうとは限らないと思いますよ。もちろん賢さは必要ですが、先ほども言ったように、サッカーではアスリート能力とか技術レベルの高さがより重要視されるし、頭の良さって、あくまでも違いを作るためのプラスアルファだと思っているので。



戦術の進化とともに、指導者のレベルも上がっていくでしょうか?


 相手に対策された時に、監督がそれを上回るものを提示できるか、でしょうね。今は選手のレベルがどんどん上がっていって、判断力も研ぎ澄まされてきていますが、それでもピッチの上だけですべてを解決できるわけではないんです。チームとして同じ絵を描けるかどうか。プランAが通用しないとなった時に、監督がプランB、プランCを出していけるチームでなければ、どうしても手詰まりになってしまいますから。



いわゆる戦術の引き出しが多い監督と言えば、シティのペップ・グアルディオラや、三笘薫選手のいるブライトンのロベルト・デ・ゼルビなどが思い浮かびます。三笘選手の持ち味を、デ・ゼルビ監督が引き出している部分も大きいですか?


 デ・ゼルビが志向するポゼッションサッカーの中で、三笘選手のドリブルが1つのアクセントになっているのは間違いありません。


 三笘選手の場合は、ポジショニングというよりも、仕掛ける時と仕掛けない時の使い分けの上手さに、賢さを感じます。自分に2人マークが付いてきたら簡単にボールを離すし、そうでなければ1対1の勝負を仕掛ける。最近は中に入ってプレーすることも多くなりましたが、とりわけオン・ザ・ボールでの状況判断、プレー選択が的確ですね。



林さんが最初に名前を挙げられたベルナルド・シウバをはじめ、グアルディオラ監督率いるシティには頭のいい選手が多い印象があります。


 例えば、(ケビン・)デ・ブライネなんかは、技術、アスリート能力がハイレベルで、サッカーIQも高いパーフェクトな選手だと思いますが、彼もシティでペップという優秀な監督のもとでプレーしたことで、戦術的により洗練されました。現代で言えば、彼のような選手が頭のいい選手の代表格ですが、その背景に監督の指導力、ペップが与えた揺るぎない戦術のベースがあることも忘れてはならないでしょうね。



林陵平(はやし・りょうへい)


1986年9月8日生まれ、東京都出身。ヴェルディ・アカデミー、明治大を経て2009年に東京Vとプロ契約。その後、柏、山形、水戸、東京V、町田、群馬と渡り歩きながら、大型ストライカーとして活躍し、20年シーズンを最後に現役を退いた。寝る間も惜しんで試合をチェックする欧州サッカーマニアとして知られ、引退後はその圧倒的な知識量と戦術理解の深さで、解説者として引っ張りだこだ。21年1月末には、東京大学ア式蹴球部の監督に就任。23年10月9日をもって退任するまで、約3年にわたって関東大学サッカーリーグ東京・神奈川1部を戦うチームの指導にもあたってきた。