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 2024/03/29 02:39

長谷部誠:サッカー界の老練な賢者、持続性の秘訣は「断捨離」思想にあり


ブンデスリーガ最年長プレイヤー、長谷部誠の40歳の誕生日を新記録と共に迎える。彼がトップリーグで輝き続ける秘密とは何か?

ブンデスリーガ最年長プレイヤー、長谷部誠の40歳の誕生日を新記録と共に迎える。彼がトップリーグで輝き続ける秘密とは何か?


 彼はマイナーリーグなどではなく、40歳という年齢にも関わらず、今もブンデスリーガ1部で足を止めることなく競っている。どんな手法で時の流れと戦い、トップリーグでの存在感を保っているのか。ドイツ在住のジャーナリストが長谷部誠の聡明さの深層に迫ります。



日々の生活から決別した「サウナ習慣」


 ヨガの古典には断行、捨行、離行の三行がある。これらは「断捨離」という言葉の起源であり、「断行」は不要なものを断つこと、「捨行」は不必要なものを捨てること、そして「離行」は執着を手放すことを指す。


 この概念は長谷部の行動哲学と深く共鳴している。プロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせて以来、40歳の今もブンデスリーガで活動する彼は、この哲学を一貫して生きてきたと見られる。


 浦和レッズからドイツのヴォルフスブルクに移籍が決まった際、長谷部は通訳を連れてクラブハウスを訪れたが、そこでフェリックス・マガト監督に由来するルールを知らされることになる。


 「通訳を使うな。全てはドイツ語で行われるべきだ」


 この出来事をきっかけに、出不精だった長谷部は地域社会に開かれ、積極的に言葉を交わすようになった。


 イタリアンレストランでのエピソードはその一例だ。彼は電子手帳を頼りにドイツ語で対話をし、電子辞書を携えては話し言葉を学んでいた。「これが今の自分にとっての宝物」と語る彼からは、言語習得に対する内なる決意が伝わってきた。


 「こんなふうに日本語で喋るのは、ひと月ぶりかもしれない。ホームシックにもなった。正直、すぐにでも日本に戻りたいとも思った。でも、ここで生きるなら、日本語は要らない」


 長谷部は秀才型の人間だ。絶え間ない努力と忍耐、そしてその先にある結果を予測できる人物である。


 サウナが好きで、日本時代はよく温浴施設に通い、ドイツでもサウナを日常としていたが、ある日の風邪をきっかけに断念することに。サッカーへの影響を考慮し、好きなことでも遠慮なくやめられる。彼の決意は常に迅速で断固としている。



見極める力、「必要」か「不要」かを分別する眼差し


浦和レッズ時代の忘れがたい得点。若い日々に培われたドリブル能力は現在でも、リベロとしての役割で相手の圧力を掻い潜る技術となり、その輝きを放っている。

浦和レッズ時代の忘れがたい得点。若い日々に培われたドリブル能力は現在でも、リベロとしての役割で相手の圧力を掻い潜る技術となり、その輝きを放っている。


 一方で、年月を経るごとに長谷部のポジションは変わってきたが、プレースタイル自体は変遷しているように見えない。


 学生時代やプロになった直後はトップ下、日本代表のキャプテン時代はボランチ、そして三十路を過ぎて円熟の極みに達してからはリベロと移り変わったが、彼はその都度、当該ポジションにアジャストしたフィジカルとスキルを身に付け、積み上げてきた“武器”を効果的に駆使している。それは彼が自らを俯瞰して分析・検証し、シチュエーションに則して最適解を導き出せているからなのかもしれない。


 例えば、トップ下でプレーしていた頃の最大の武器は、スキーのスラローマーのようなドリブルだった。今も伝説として語られる04年8月29日のJリーグ2ndステージ第3節、ジュビロ磐田戦で見せた独走ドリブルからの決勝ゴールは、本人が「生涯ベストゴール」と自賛するものだが、このドリブルは今、バックライン最後尾でのプレー時に相手プレスをかわすテクニックとして活用している。


 また、ボランチ時代に身に付けた広角な視野は、年齢を重ねてさらに凄みを増していて、「中盤よりも周囲のプレッシャーから逃れられるリベロでは、より遠くの状況を見られる感覚がある」とも語っている。


 20代の頃の長谷部はキックが上手い選手とは感じなかった。20メートル、30メートルと距離が延びるごとにその精度は下がり、ブンデスリーガでプレーし始めた2000年代後半~2010年代初頭は中・長距離のキックを蹴ることを躊躇(ちゅうちょ)している所作も見られた。


 しかし、14年夏からアイントラハト・フランクフルトでプレーし、当時の指揮官だったニコ・コバチ監督(現ヴォルフスブルク監督)にバックラインの中核であるリベロを任されて以降の長谷部は、ロングレンジのキックを頻繁に繰り出すようになった。それも相手陣内の狭小なスペースにいる味方選手の足下に、ピタリと届けるような正確なフィードを、だ。


 以前、冗談交じりにキック精度向上の理由について本人に尋ねたが、「必要に迫られたから(笑)」としか答えてくれなかった。その陰に不断の努力があることを包み隠す姿勢もまた、彼の得難い個性だ。そして何よりも長谷部は、「無用」と「有用」の棲み分けができている。そんな物事を見極める“眼”こそが、プロサッカー選手である彼の最大の武器だとも思うのだ。



指導者ライセンス取得を目指す過程で


現役を続けながら、UEFA認定の指導者ライセンス取得を目指している長谷部。パチョ(右)のような若手にアドバイスを送る姿も、すでに様になっている

現役を続けながら、UEFA認定の指導者ライセンス取得を目指している長谷部。パチョ(右)のような若手にアドバイスを送る姿も、すでに様になっている


 俯瞰して物事を捉えるという意味では、長谷部はここ数年で異なる見地を得られるようになったとも思う。自身も公言している通り、現在の彼はUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)が認定する指導者ライセンスの取得を目指している。


 そのために、現役引退後もフランクフルトに関わるという条項が盛り込まれた契約を結んでいるし、現役である今もユースチームのトレーニングに参加するなどしてコーチングを学んでもいる。そうした経験を積むことで、長谷部は監督と選手の関係性、特に監督側の思考や思惑などを外殻的に捉えられるようになったという。


 例えば、21-22シーズンから2年間フランクフルトの指揮を執ったオリバー・グラスナー監督(現クリスタル・パレス監督)が、長谷部を先発から外す理由を懇切丁寧に話してくれた際には、「そこまで気を遣わなくてもいいのに」と思った一方で、「監督の立場になれば、自分のような年長者の扱いには気を配らなければならないのだな」とも理解したという。監督と選手との関係性はときにセンシティブなものだが、長谷部は両極の立場を理解、把握した上で、自らの振る舞いを適時判断できている。


 だからといって、彼が常に冷静沈着な人物というわけでもない。世間の風評や公の場での言動を見聞きしている方は意外に思われるかもしれないが、少なくともピッチ上の長谷部は激情型の人間である。


 不惑の年齢に達した長谷部だが、今でも審判と激しく口論するし、仲間を叱責したり、対戦相手に食ってかかることもよくある。


 本人は感情的になることに寛容だ。むしろエモーショナルな振る舞いこそがプレーの原動力になると考えていて、そのモチベーションが尽きた時にプロサッカー選手としての人生が終わるとも吐露している。感情の発露は無意識的だが、それによって生じるシナジーは自覚的という多重人格的な思考もまた、この選手の稀有な特徴なのだと思う。



どんな試合でもミックスゾーン対応を拒まない


3失点に絡んだ今季初先発のフライブルク戦(写真)の後も、ミックスゾーンで取材に応じた。鬱積した感情を解放できる点も、長谷部の長寿の秘訣なのだろう

3失点に絡んだ今季初先発のフライブルク戦(写真)の後も、ミックスゾーンで取材に応じた。鬱積した感情を解放できる点も、長谷部の長寿の秘訣なのだろう


 24年2月18日、ブンデスリーガ第22節のフライブルク戦で、長谷部は今季初めてリーグ戦に先発し、フル出場。試合は3-3のドローに終わった。


 チームの1失点目は自身の足の間にシュートを通され、味方GKケビン・トラップが弾いたこぼれ球をフライブルクMF堂安律に決められたものだった。2失点目は自身が相手選手を倒して献上したPK。そして3失点目は、相手クロスの競り合いで自身の後頭部に当たったボールがゴールに吸い込まれるという、偶発性を帯びたものだった。


 どんな試合内容でも、どんなプレーパフォーマンスであっても、近年の長谷部は試合後のミックスゾーン対応を拒まない。そして冷静に、俯瞰的に物事を捉えながら課題と反省の弁を述べ、ほとんど表情を崩さずにその場を後にする。


 表面上は3失点に絡んだフライブルク戦後、「いったんロッカールームにチーム全員で引き上げなきゃいけない」と言った彼はその数分後、律儀にミックスゾーンに戻ってきて取材に応じた。しかし、長年彼を取材してきた者ならば分かる。その話が長ければ長いほど、試合内容や自身のプレーパフォーマンスに承服しかねていることを。一方で彼は、その鬱積した感情を内包させたままの無意味さも理解している。「断行」「捨行」「離行」の概念はここに通底していて、そうしたスタンスを貫くことが、最前線の舞台に立ち続けられる秘訣であることを理解している。


 選手側から物事を見定めてきた彼が思い描く未来は、指導者として生きる道。本人はこう言う。


「皆が思っている以上に、僕はただの“サッカー小僧”ですよ」

 

「サッカー」を人生の主軸に据える長谷部誠の人生は、いたってシンプルで、聡(さと)いものだと思う。