遠藤航が復帰戦で鮮烈なインパクトを残す:守備から攻撃への鮮やかな展開
アジアカップでの敗退から1週間後、バーンリーとのホームゲームでほぼフルタイムをプレーした遠藤航は、復帰戦であるとは思えないほどの素晴らしい活躍を見せた。
アジアカップから挑んだリバプールの遠藤航は、2月10日のバーンリー戦にてスターティングメンバーとして出場し、後半のアディショナルタイムに交代されるまでの時間、素敵なプレーを展開し、3-1の勝利に大きく貢献した。復帰戦での輝きを放っていたのは、遠藤だけではない。ブライトンの三笘薫もまた、トットナム戦の肝心な場面にゴールを決め、チームが逆転負けを喫したとはいえ、26歳の日本人アタッカーは左サイドを活用してチームに大きなインパクトをもたらした。
クロップ監督が遠藤を「非常に影響力がある」と評価
アーセナルに対する敗北から立ち直り、アンフィールドでのバーンリー戦はリバプールにとってのドゥ・オア・ダイな試合でした。遠藤航はアーセナル戦の前日、アジアカップでの敗退から帰ってきたばかりであったにも関わらす、試合に先発出場していた。
時の経過を感じさせる瞬間だった。プレミアリーグでプレーする日本人選手を2001-02シーズンから取材してきたが、過去、アジアでの代表戦に参加した日本人選手はしばしば、イングランドに戻った直後の試合でベンチさえ温めることができなかった。
しかし、遠藤は当然のようにスターティングメンバーに名を連ね、クラブ史上最多となる5万9896人の大観衆の前で、勝利を誓う円陣が解けた後、チームメイトをクラップしてピッチへと送り出した。
ユルゲン・クロップ監督の試合前日の定例会見では遠藤に関する質問が幾つか寄せられており、ドミニク・ソボスライやチアゴ・アルカンタラといった負傷中の中盤選手を補う選手として遠藤の起用が期待されていた。
クロップ監督はこの会見で遠藤を「非常に影響力を持つ選手」と評し、記者達に遠藤が誕生日を迎えていたことも告げ、「起用は嬉しいことだ」と述べていた。
そして遠藤は31歳の誕生日を迎えた翌日、クロップ監督の言葉を実証するかのように素晴らしいパフォーマンスを魅せた。
遠藤の見事なアシストプレーに芸術点が付けられるべき
バーンリー戦では特に光り輝いた遠藤航は、守備だけでなく攻撃の起点としての役割も見事にこなし、試合中に精度の高いパスを繰り出した。
取材メモを見ると、キックオフ直後のリバプールの様子について“気合い満点だが、攻撃がやや性急”と記してある。クロップ監督も試合後に「攻撃が単調で、ダイレクトすぎた」と話しており、意見が一致した。けれども前週の負けを体験していない分、気負いがなかった遠藤は中盤の底で落ち着いていた。日本代表主将の視線の先には常にボールがあり、その表情には「90分は長い。そのなかで自分の見せ場をきっちり作る」とでもいう、強固な意思が浮かび上がっていた。
そんな遠藤の最初の見せ場は前半11分に訪れた。中盤の底から守りの状況を一瞬にして攻撃に切り替える30メートル級のパスを、左サイドを駆け上がったアンディ・ロバートソンめがけて放った。
さらには29分、敵陣に押し上げたチームと一緒にポジションを上げた遠藤のところに相手のクリアボールが飛ぶと、このセカンドボールを頭で、右サイドにいたトレント・アレクサンダー=アーノルドの足元へぴたりとつけた。
この時に限らず、遠藤のヘディング・コントロールは常に見事だ。ただ跳ね返すだけではなく、必ずと言っていいほど味方に、それも欲しいところにピタッとボールを出す。
ここから遠藤が「一緒にプレーすることに喜びを感じる」というアレクサンダー=アーノルドのクロスがブロックされ、ディオゴ・ジョッタの先制点を生んだコーナーキックにつながった。
さらには前半の終盤、ゴール前にいたジョッタの頭をめがけて、ペナルティボックスのやや外からピンポイントで絶妙なボールを送った。ところがバーンリーDFが、コーナーキックに見事に頭を合わせて先制点を奪取したポルトガル代表FWを後ろから引き倒して、遠藤の美しいパスを無駄にした。
反則となればPKの場面。しかし主審はこのプレーをスルー。するとタッチライン上で怒り狂ったクロップが大声で悪態をついてイエローをもらった。
ドイツ人闘将が荒れ狂うくらい、幻のアシストとして芸術点をつけてもいいほど、この時、遠藤の放ったパスは素晴らしかった。
また後半にも見せ場を作った。ハーフタイムが終わって16分後、再び左サイドのロバートソンに見事なパスを放った。
これが絶好のボールだった。遠藤は、この日は風邪で欠場したアリソンの代役を務めた25歳GKクィービーン・ケラハーからのゴールキックを相手に背を向けたまま受けると、ワンタッチでボールを動かしながらターン、そして左サイドに30メートルのパスを蹴った。この時に完全にフリーだったロバートソンは、遠藤からの完璧なパスを受けると、そのまま縦に相手陣営に突っ込み、戻りきれないバーンリーの最終ラインをあざ笑うかのようにニアサイドに走り込んだダルウィン・ヌニェスにクロスを送った。
このボールにウルグアイ代表FWがダイレクトで右足を合わせて、枠内に鋭いシュートを放った。ところがバーンリーGKジェームズ・トラフォードがスーパーセーブを見せてゴールはならず。けれど、もしも遠藤のパスが起点となったヌニェスのシュートが決まっていたとしても、韋駄天のウルグアイ代表FWがわずかにオフサイドだったため、ゴールは取り消されていた。
しかしこれも遠藤のパスセンスがまたもや光ったプレーだった。
試合は前半31分にジョッタが先制した後、バーンリーも同45分にコーナーキックからDFダラ・オシェイがヘディングでゴールを奪い、1-1の同点となった。しかしリバプールは、後半7分にゴール前に飛び出したルイス・ディアスが頭で決めて2-1と再び1点をリードすると、続く後半34分にもハーヴェイ・エリオットのパスにヌニェスが頭を合わせて3点目を奪取。先発した3トップが全員ヘディングで1点ずつゴールを奪い、前週のエミレーツで喫した敗戦スコアをひっくり返して、ホームで3-1の勝利を飾った。
交代時には大観衆が総立ちになって
この日、アンフィールドにはリーグ戦におけるスタジアムレコードを更新する5万9896人が詰めかけた。終了間際に遠藤がピッチを去る時には、その大観衆が総立ちで彼の活躍を称えた
遠藤は後半アディショナルタイム7分に19歳MFジェームズ・マコーネルと交代するまでプレーした。アジア杯からの復帰直後の試合でほぼフル出場といっていい貢献をして、ピッチを降りる際には、史上最多記録となった大観衆が総立ちとなり、頼りになる男が帰ってきたとばかりに、日本人“No.6”にスタンディングオベーションを浴びせた。
また試合終了直後、遠藤がチームメイトとのセレブレーションに加わるためにベンチからピッチにゆったりと歩いて戻る途中、クロップ監督が日本代表主将に後ろから近寄り、その肩を抱いて何かを囁いていたのも印象に残った。
そして、いつもは超過激サポーターで埋まるゴール裏の『コップ・スタンド』だけに、3回の正拳突きをして勝利の喜びを分かち合うクロップ監督だが、この日は反対側のゴール裏、そしてメインスタンドにも向かって、3回拳を突き出す大サービス。こんなシーンにも今季限りの勇退の現実味が表面化した。
試合後、遠藤に聞きたいことは山ほどあった。ところが復帰初戦で素晴らしいパフォーマンスを見せた日本代表主将はミックスゾーンに姿を現さず、本当に残念ながら取材が叶わなかった。
こういうことは大きいクラブほどある。それでも遠藤は取材に応じてくれるほうだ。この日もハーフタイムの時点で広報官に日本代表主将と「話がしたい」と伝えていた。だから取材ができるものだと安心していたのだが、試合後のカオスな状態で遠藤本人がつかまらなかったのか、それともクロップ監督の勇退発表後、選手のインタビューを控える方針になったのか。試合後、午後6時15分までミックスゾーンで粘ってはいたのだが、スタッフの1人に「もう控え室には誰も残っていない」と言われて、後ろ髪を引かれる思いでアンフィールドをあとにした。
三笘はピーク時の体調を取り戻しつつある
2月10日のトットナム戦。三笘は自身にとって約50日ぶりのプレミアの試合でキレのある動きを見せた。前半29分にはララーナからパスを引き出し、右足アウトサイドのシュートでゴールを脅かすシーンも
帰宅後はBBCの『マッチ・オブ・ザ・デイ』を見た。これはもう前世紀から続く、筆者の長年の習慣だ。プレミアリーグのハイライト番組で、英国の国民的番組でもある。1990年代に名古屋グランパスでプレーしたことで日本でも知名度が高い元イングランド代表FWのギャリー・リネカーが司会を務め、解説陣もこれまたレジェンド級の元有名選手が勢ぞろいして、90分間にわたり、その日のプレミアリーグを語り尽くす。
この形態は筆者が番組を見始めた90年代半ばから全く変わっていない。変わる必要がないのだ。これは原稿を書いている者の実感でもあるが、プレミアリーグのフットボール自体が素晴らしく、それをそのまま伝えればそれで勝手に素晴らしいものになってしまう。制作する側もテコ入れや新企画の導入など全くせず、国民の習慣となっている番組の視聴率を気にする様子がない。無論のこと、芸人が出て番組を盛り上げる必要もない。
リバプールとバーンリーの試合は、この日、12時30分のアーリー・キックオフだったマンチェスター・シティ対エヴァートンの次に放映された。試合のダイジェストは約8分間。そのなかで先制点のコーナーキックにつながるヘディング、ジョッタに送ったスルーパス、そしてヌニェスがオフサイドとなったが、ロバートソンに送った完璧なパスと、遠藤のプレーが3つも紹介された。
これは敵味方合わせて4ゴールが飛び出した試合では異例と言っていい注目度だった。
そして偶然、3試合目にトットナム対ブライトンが続いた。ハイライト映像を流す直前に、この日の解説を剛脚ストライカーとして名を馳せた元イングランド代表FWアラン・シアラーと務めた元アーセナルで元イングランド代表DFでもあるマーティン・キーオンが、「双方ともに攻撃的なチームで、フットボールの試合はこうあるべきというエキサイティングなゲームだった」と賛辞を送った。
この試合の映像は約6分間流れたが、こちらでも復帰したばかりの日本代表MF三笘薫のプレーが2度紹介された。
まずは前半にアダム・ララーナからのスルーパスを受け、得意の右足のアウトサイドでオン・ターゲット(枠内)のシュートを放ったシーン。そして後半、左サイドからボックス内に進入し、マイナスの折り返しクロスを放ったプレーが流れた。
あのクロスは、至近距離だったということもあり、アンス・ファティがきっちりと決めて、日本代表MFにアシストをつけてほしかったが、放ったシュートは対角線上の右サイドのポストをかすめるように外に逸れ、惜しくもゴールはならなかった。
この最大のチャンスを逃したブライトンは、1-1の同点で迎えた後半アディショナルタイム6分に、ソン・フンミンが左サイドから放った低空クロスをファーサイドでフリーで待ち受けていたブレナン・ジョンソンに右足を合わされてゴールを割られてしまう。パスカル・グロスのPKで先制しながら、ブライトンは1-2で痛恨の逆転負けを喫した。
キツい敗戦ではあったが、マッチ・オブ・ザ・デイが注目した三笘の2プレーを映像で見る限りは、26歳MFがピーク時の体調を取り戻しつつあると感じた。アジア杯参加中にしっかりケガを治して、動きに本来のキレが戻っていたという印象だ。
翌日、日本の報道を見ると、三笘の談話が掲載されていた。ブライトンにはチャーリーという日本贔屓(びいき)の若い報道官がいて、アウェーの敗戦直後でもしっかり日本代表MFを日本人記者団の前に連れて来てくれる。
アディショナルタイムに決勝弾を食らい、「自分たちのミスでボールを失ってからショートカウンターの形が多かった」というような渋いコメントだったが、ロンドンへ行っていれば三笘の取材ができたと思うと同時に、遠藤と話せなかった悔しさも再びこみ上げてきて、筆者のプレミアリーグ第24節が幕を閉じた。