連覇の重圧を超え、チャレンジャーの精神で臨む山梨学院
前年優勝チームの面影がなくとも、健闘を続ける山梨学院の選手たちは、関東大会の輝かしい成績を受け再び甲子園を目指す
昨年春、山梨学院がセンバツで全国を制覇、三年連続の出場権を獲得しましたが、彼らは連覇の圧力よりも、挑戦する心を持って甲子園に向かいます。初戦は3月20日、京都外大西が相手です。王者の重責を離れ、再び挑戦者として、貴重な舞台に臨みます。
昨年の栄光とは新たなチャレンジ
「皆で甲子園に優勝旗を返すために戦おう」
この新たなスタートで、キャプテン中原義虎はチームを奮い立たせました。
前回のセンバツでベンチを暖めていたのは、背番号16の二村仁功ただ一名です。そこで応援団を率いていた中原は、尊敬する先輩に続くことを心に誓いました。
「時には先輩たちに優しくされ、厳しくも指導され、本当に恵まれた環境でした。開会式を観ているときに、『来年は絶対にこの場所へ戻る』と強く心に決めたことを覚えています」
チームの前ラインアップは居なくなりましたが、センバツを二度経験した吉田洸二監督ですら、「センバツのことはまったく考えていなかった」と振り返っています。
秋季大会では、甲府城西戦が中心となるターニングポイントでした。試合の行方が不透明な中、7回裏にスコア3-3で迎えて、一死満塁の危機を乗り越えました。
「チームの大変換期だったため、不安がありました。そこに、ある程度安心しきっていた選手たちとのギャップが露見した。それが反映された試合でした。もう一度謙虚な姿勢に立ち返ろうと決心しました」
厳しい局面を乗り越えた凛とした守り
弛まぬ闘志を抱いた吉田監督と山梨学院の選手たち。予想を超える粘りと結束力で試合を制していく
変化を加えたのは、バスでのチーム移動が一つの要素でした。その中で吉田健人部長が、チームと共に移動するようになりました。そこから関東大会の決勝まで、チーム一丸となって臨んだのです。
「バスの中から戦う姿勢を持ち、緊張感を高めていく」と吉田健人部長は述べます。
若きチームが共に心を一つに集約し、秋季関東大会で堅実な戦いを展開しました。昌平戦、桐光学園戦でのタイブレークで見せた勝利はチームに自信を与え、準決勝で健大高崎への勝利は、チームの結束を固めました。
チームは秋季大会準々決勝から関東大会準々決勝まで6試合連続で2失点以内に抑え込み、全員がここ一番で力を合わせて点を取る集中力を発揮しました。桐光学園戦では、8回に梅村団の二塁打や河内佑樹、中原義虎の連打で同点とし、延長11回の勝ち越しも針尾泰地の二塁打でおさめました。
実は、タイブレークでの勝利は吉田監督にとって、そして山梨学院にとっても新たな歴史でした。連覇の昨年のチームは、春の県大会決勝、夏の準決勝でタイブレークに敗れていた経験を持っています。
なぜ、今回は勝利をものにできたのでしょうか。その核心へとふれる吉田監督の洞察は興味深いものです。
「以前は、接戦で5回終了時の整備を迎えると、『タイブレークになったら嫌だな』と思っていました。特に強い力を持つ先輩たちは、延長戦前に試合を決めたい一心でした。しかし、今のチームはタイブレークになると勝機が見えるようになりました。こうした変化が、選手達にも伝わったのです」
冬季トレーニングで体力と団結力を高めた山梨学院
過酷な冬の訓練を経て、大きな舞台での成果を発揮しようとするチームの姿
冬の訓練期間を経て、行動は一致団結し目標明確な山梨学院はセンバツ切符をつかんだ。
「一冬で二年分の力をつける」が吉田監督が掲げたスローガンだった。
冬合宿の恒例となる長崎で行われたトレーニングでは、彼らは地道な走り込みを実施し、下半身強化に注力した。
「厳しいトレーニングの連続はチーム力の向上はもちろん、精神的な結束感にも寄与しました」と中原主将は語る。
さらに中原主将の指導のもと、BIG3トレーニングと綱引きが新規メニューとして取り入れられた。主な焦点は握力向上であり、握力がスイングスピードに直結する。強烈な対戦形式の綱引きは、最大で1日100回まで実施し、選手たちの握力が自然と向上。
中原トレーナーは目を見張るような成長を感じており、「多くの選手がわずかひと月で握力が10キロ以上も向上した」と報告している。トレーニングの成果は目に見えており、食事面も強化され、女子マネージャーが作るおにぎりが定番の栄養補給となった。
中原トレーナーはラグビー界で名を馳せた人物で、高校野球での指導はこれが初めてだが、身体能力の向上は確実であり、監督からの信頼も厚い。
先輩たちが示した甲子園での楽しみ方を引き継ぐ
「連覇への意識はない」と話す中原主将。1ゲームずつ全力を尽くすチャレンジャー精神で臨む予定です。
センバツ初戦は京都外大西と3月20日に予定されています。
「まずは初戦に集中することが大切です。バッテリーが試合のペースをつかめるかどうか。なかなか勝てなかった昨年をふまえ、硬さを克服することも、私を含め大事ですね」と吉田監督は力を込めて言う。
昨年の秋に見せたように、しぶとく守り抜き、接戦を演じることができれば、どのような相手でも勝機が見えてきます。
そのカギを握るのはエース櫻田です。感情をにじませず淡々とプレーを続ける姿勢が持ち味で、秋季関東大会ではタイブレークを2試合続けて成功させました。球速を超えるキレのあるストレートで相手を圧倒する。
櫻田の愛する言葉は『最高の恩返し』で、それは彼のグラブにも刺繍されています。「甲子園という大舞台で結果を出すのが、恩返しに繋がると確信しています」
ネット裏のスローガンは「俺達はチャレンジャー!」と記されており、吉田部長が考案したものです。
「選手も指導者も、甲子園で勝てないもどかしさを感じていました。常にチャレンジャーとしての心持ちで臨むことが、昨年の日本一への鍵だったので、それを引き続き大切にしています」と吉田部長は説明します。
キャッチボールの前には「俺達はチャレンジャー!」を中原主将が声を大にして言うことがルーティンとなりました。
「多くの方に連覇の話をされますが、意識はせず、チャレンジャーの精神を大事にします。ミスや失敗を乗り越え、切り替える力があります。昨年卒業した先輩たちは、いつも笑顔で野球を楽しんでいました。私たちもその姿勢を継承し、自分たちのプレーをすれば結果はついてくるはずです」と意気込む中原主将。
チームは一戦必勝の心構えで、全力で挑戦者として戦い続けるつもりだ。