MLB公式記者による2023年の大谷翔平ニュース・ベスト10、チェコの野球人気に貢献したエピソードも
2023年の数ある名場面の中でも、WBC決勝でのトラウトとの対決は特筆すべきものでした。優勝が決まる瞬間に大谷がグローブを投げた瞬間も忘れられませんでした。
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に来日し、侍ジャパンをフロリダ州マイアミで行われた決勝まで取材したMLB公式ページのマイケル・クレア記者。
春先にWBCにおける日本代表の戦い、優勝までの道のりを振り返ってもらったが、今回は2023年のニュースについて、大谷翔平と世界の野球界全体という2つのテーマでトップ10を挙げてもらった。
お菓子を食べる姿がランクイン
まずは、“大谷10大ニュース”の10位から6位まで。
- 10位:ファニオンを食べている写真
- 9位:愛犬「デコピン」と一緒にMVP受賞
- 8位:WBCでの打撃練習
- 7位:WBC・オーストラリア戦で自身の広告に本塁打
- 6位:6月のパフォーマンス
10位は、大谷がファニオンというお菓子を手に無表情でバスの座席に座っている写真。チームメートのパトリック・サンドバルがスマホではなくフィルムカメラで撮ったもので、現像した写真をインスタグラムにアップすると、瞬く間にSNSを通じて拡散した。メジャーリーグの公式ページが記事にするほどで、クレア記者によれば、記者のショーン・スプラドリングが、ハロウィーンでこのときの大谷の仮装をしたそう。
7位は、大谷がWBCのオーストラリア戦で、右中間へ放った本塁打。自身の広告を直撃する特大弾だったが、クレア記者が注目したのは飛距離ではなく、その後。幸運にもホームランボールを手にした女性は、周りにいた人の求めに応じて、ボールを手渡した。手にした人たちが、そのボールを写真に撮る様子がテレビに映ると、クレア記者は、右翼席へ向かい、わざわざ女性に話を聞いたという。
「あんな光景、アメリカでは見たことがなかったから」
彼は、来日してから日本の文化に魅せられ、「様々な場面で日本人のやさしさに触れた」と春先に話していたが、「話を聞いていて心が温かくなった。なにかこう人間の優しい一面に触れた気がする。WBCの取材でもっとも思い出深い瞬間だった」と改めて頬を緩めた。
「野球の親善大使」になった大谷
- 5位:今季メジャー最長の493フィート弾
- 4位:6月27日、ホワイトソックス戦での活躍
- 3位:WBC・1次ラウンド 日本vs.チェコ
- 2位:7月27日のダブルヘッダー 第1試合で初完封、第2試合で2本塁打
続いて5位から2位。いずれも今季の大谷を象徴するが、27日のホワイトソックス戦では先発すると、6回1/3を投げて、1失点、10奪三振。打っては、3打数3安打、2本塁打。二刀流としての活躍としては、「もっとも印象的だった」と熱く語った。
大谷はその後、肘を痛め、2度目の手術に踏み切っている。よって一部から、「近い将来、大谷は野手に専念すべき」との声も出たが、「なぜ、あきらめなければいけないんだ?」と、クレア記者は首を傾げる。ホワイトソックス戦やデトロイトでのダブルヘッダーを目の当たりにした人なら、容易に同意できるのではないか。
3位のチェコ戦に関しては、後日談がある。9月終わりから10月中旬にかけて、チェコ共和国で野球のヨーロッパ選手権が行われた。現地で取材したクレア記者は、「野球人気に驚いた」そうだ。「どの会場もファンで、溢れていた。熱気がすごかった」。
もちろん、大きなスタジアムがあるわけではないが、「こんなに野球の人気があったのか?」と目を疑ったという。その要因は、「間違いなく、WBCの影響だろう」とのこと。ただ、その影響をさらに掘り下げれば、大谷の名前に行き着く。
クレア記者がチェコ共和国の選手らに「WBCで印象に残っていることは?」と聞くと、揃って「大谷のチェコ共和国に対する敬意」と口にしたそうだ。「みんな“Respect”というチェコ戦後の投稿(インスタグラム)に感激したと話していた」。
大谷がWBC決勝の地であるマイアミへ移動した際には、空港到着時にチェコ共和国の帽子を被っていたが、あの帽子はその後、チェコ共和国の国内では売り切れになった。
クレア記者は、チェコ共和国の選手らに、「大谷に伝えたいことは?」と聞くと、やはりみんな口を揃えたそうだ。
「野球を広めてくれてありがとう」
クレア記者は確信した。
「大谷は、まさに野球の親善大使。世界最高の選手がその役割を率先して担い、野球のグローバル化に貢献。彼は野球界全体の顔になった」
大谷のインパクトは、ヨーロッパ選手権にまで及んでいた。
歴史が生まれた名シーン
- 1位:WBC決勝の九回2死、大谷対トラウト
1位に関しては、予想通り。ただ、2023年の1位というより、クレア記者は歴史的な出来事として位置づけていた。
「例えば、ベーブ・ルースが予告本塁打(1932年のワールドシリーズ第3戦)を放ったり、ウィリー・メイズが1954年のワールドシリーズで頭上を超える打球をキャッチしたシーンと同じぐらいのインパクトをもたらした」
あの場面は、深くメジャーリーグ史に刻まれたーーそう言いたげ。
「子供や孫を通して、今後長く語り継がれることだろう。まさにそんな歴史が生まれた」
余談だが、エンゼルスのミッキー・モニアックもこのシーンについてこんな話をしていた。
「ぼくのおじいちゃんは、マイナーリーガー時代、コーチとなっていたテッド・ウィリアムズに指導をしてもらったことがある。その話を何度も聞かせてもらった。いつか自分にも孫が出来たら、『おじいちゃんは、 WBCの決勝で対戦した大谷と(マイク・)トラウトとチームメートだったんだよ』、「大谷はすごかったんだよ」って伝えたい」
あのシーンは様々な形で、後世に伝えられていきそうだ。