【宝塚記念】428kgの小さなブローザホーンと23歳の菅原騎手、上半期GPも人馬初GIで締めくくり
ブローザホーンと菅原明良騎手が上半期を締めくくるグランプリレース・宝塚記念を制した
JRAの上半期を締めくくるグランプリ、第65回GI宝塚記念が6月23日に京都競馬場2200m芝で行われ、菅原明良騎手が騎乗した3番人気ブローザホーン(牡5=栗東・吉岡厩舎、父エピファネイア)が優勝。後方2番手追走から最後の直線は大外を豪快に伸び、GI初勝利を飾った。重馬場の勝ちタイムは2分12秒0。
ブローザホーンは今回の勝利でJRA通算21戦7勝、重賞は今年1月の日経新春杯に続く2勝目。騎乗した菅原騎手、同馬を管理する吉岡辰弥調教師ともにこれが嬉しいJRA・GI初勝利となった。
なお、2馬身差の2着には横山武史騎手騎乗の7番人気ソールオリエンス(牡4=美浦・手塚厩舎)、さらにクビ差の3着には横山和生騎手騎乗の5番人気ベラジオオペラ(牡4=栗東・上村厩舎)が入線。1番人気に支持されていた武豊騎手騎乗のドウデュース(牡5=栗東・友道厩舎)は直線伸びず6着に敗れた。
掛け値なしの“本物”を証明する大外一気のパフォーマンス
人馬ともに嬉しい初GI勝利、スタンドからは「明良」コールも起こった
ビッグレースのスタートを盛り上げるGIファンファーレの直後、待ってましたとばかりに降り始めた強い雨。何やら波乱を予感させる上半期グランプリの幕開けだったが、そんな雨を切り裂き、直線大外を真一文字に突き抜けたのは5歳牡馬のブローザホーン。今年初戦の日経新春杯で重賞初制覇を達成し、続く阪神大賞典3着、初のGI挑戦となった前走の天皇賞・春でも2着。この今年3戦の走りが単なる勢いではなく、掛け値なしの“本物”であることを証明するに十分なパフォーマンスだった。
「ものすごく嬉しいです。ここまで乗せ続けていただいたオーナー、関係者の皆さまに感謝の気持ちでいっぱいです」
そう初々しい表情で喜びを語ったのは菅原明良騎手。デビュー6年目の弱冠23歳、GI挑戦23戦目での殊勲の手綱だった。道中は後方2番手から。思い切った初手を打ってきたようにも見えたが、実のところレース前は「馬場も悪かったから、ある程度前に行くプランだった」(吉岡調教師)。ただ、結果的にはこの位置取りで大正解。トレーナーは「馬自身が考えてレースをしてくれたのかも」と冗談交じりに笑顔を見せた。
一方、プラン通りとはいかなかった道中の位置取りを、実際に馬上にいた菅原騎手はどのように感じていたのか?
「ゲートを出た後は馬と相談しながらと思っていたのですが、思ったよりも後ろになってしまいました。でも、頭数も多くなかったので焦らずに行こうと思っていました」
騎乗技術の高さはもちろんのこと、この度胸と落ち着きが6年目にしてJRA通算300勝を超え、重賞もこの宝塚記念Vで2ケタの10勝に乗せた関東若手きっての好成績に結びついているのだろう。また、道中も周りが良く見えており、実にスムーズな運びで直線の爆発力につなげてみせた。
「向こう正面でローシャムパークが上がっていくのが見えたので、一緒に少し位置を上げていきました。いいところで競馬ができたと思います」
雨が勝利を引き寄せ、「道悪でもいつも通りに走る馬」
雨も道悪も苦にしない、ブローザホーンは直線大外を真一文字に突き抜けた
そして、菅原騎手の好騎乗と合わせて今回の勝利を大きく引き寄せた要因が「雨」だ。吉岡調教師が振り返る。
「今回は勝つチャンスがあると思っていましたが、運も向いたと思います。この1週間は天気予報ばかりチェックしていたのですが(笑)、ちょうどいい雨が降ったと思いますね」
菅原騎手も雨は大きなポイントだったと語っている。
「道悪で実績がある馬ですし、馬場は苦にしないと思っていました。さすがに良馬場よりも走るということはないと思いますけど(笑)、馬場が悪くてもいつも通りに走ってくれる馬ですね」
その言葉を示すように、外ラチに届こうかというくらいに大外を突き進んだブローザホーンは1頭だけ推進力が違って見える末脚だった。そして、今回の馬体重428kgは出走馬の中で最も軽く、2番目に軽い460kgのソールオリエンスよりも32kgも軽いのだから、その馬格の小ささは際立っている。それでいて、雨も道悪もまったく気にしないのだから、あの小さな馬体の中にどれほどのエンジンが詰まっているのだろうか。
「体重の数字は変わっていませんが、体の厚みがさらに増したかなと思います。今回も張りが良かったと思いますし、今年4走目で1回、1回しっかり走る馬ですけど、出来落ちがない。本当に体力のある馬だなと思います」(吉岡調教師)
トレーナーはまた続けて「大舞台で雨が降るなど運も向きましたが、一つのチャンスを一発で勝ち取る勝負強さがある」とも評した。それらの言葉を聞くと、今回の勝利は何も雨が味方したからだけではない、ブローザホーンの確かな実力があったからこそたどり着いたGIタイトルであり、今後の更なる成長と活躍への期待が膨らむばかりだ。
2024年上半期にGI初勝利を達成したコンビが目立つ
秋の競馬でも、菅原騎手を背に、420kg台の小さな馬体をフルに活用して大暴れするブローザホーンの姿が楽しみだ
一方、今年の上半期は、菱田裕二騎手&テーオーロイヤル(天皇賞・春)、津村明秀騎手&テンハッピーローズ(ヴィクトリアマイル)、またダートグレードでは川須栄彦騎手&シャマルと、人馬ともにGI級レース初勝利を挙げるコンビが目立った。しかも、いずれの馬もエリートコースを歩んできたというよりは、一歩ずつ勝ち鞍を積み重ねてきた叩き上げ。そうしたストーリーもまた、競馬の魅力を深めるものだった。
そして、ブローザホーンも初勝利までに9戦も要したものの、そこからおよそ2年でグランプリホースへと駆け上がった馬。そんな頼もしい相棒ともに23歳若手のホープは更なるステップアップを誓う。
「これまで23回もGIに乗せていただき、本当にたくさんの方々にサポートをしていただきました。本当に恵まれているなと思っていますし、感謝の気持ちでいっぱいです。なので、もっともっと結果を出していかないといけない。今年は僕自身、あまり成績が出ていないので、宝塚記念を勝てたらいいアピールになると思って挑みましたが、しっかり勝つことができて嬉しい気持ちでいっぱいです。これからもまだまだブローザホーンといっしょに成長していきたいです」
秋のGI戦線も菅原騎手を背に、420kg台の小さな馬体を目いっぱいに使って大暴れするブローザホーン――そんな姿がもう今から想像できる。そして、菅原騎手&ブローザホーンと同様、この春にGI初制覇を成し遂げたコンビが引き続き活躍するシーンを大いに期待しながら夏競馬を楽しみつつ、秋競馬の到来を待ちたい。