西武は主力投手陣の深化、「先発4本柱」の究極形
開幕ローテーション入りが期待される西武の先発4本柱。今井達也が開幕戦の先発マウンドに立つ
プロ野球シーズンの開幕がまもなくというころ、今年で日本プロ野球始動から90周年を迎える記念すべき年となる。今年のペナントレースの優勝候補は一体どのチームか、争いが注目される中、春季キャンプや練習試合を経た各球団は最終的な一軍選手を選出している。ただ勝負の長期リーグ戦においては、開幕一軍を逃れた選手の努力や若手選手の挑戦も、ひいてはチームの勝利には欠かせない存在となる。このコラムでは各球団が昨季に記録した「ポジション別得失点貢献度」をもとに、今シーズンへの展望を紐解いてみよう。ここで言う貢献度とは、各選手がリーグ平均的な選手よりも得失点にどれほど貢献しているかを示す値であり、野手は打撃を示すwRAA(Weighted Runs Above Average)、守備はUZR(Ultimate Zone Rating)、投手はRSAA(Runs Saved Above Average)により評価される。これらは各選手が同ポジションの平均的な選手と比較した指標で、RSAAを導出する際には失点率が使われるが、守備影響を排除したtRA(True Run Average)に基づいている。
強靭な先発陣、次世代エースの育成が鍵
西武の投手陣:2023年得点貢献度に関して
昨シーズンは先発投手においてリーグ2位となる防御率を誇った西武だが、実際の内容を深掘りすると、リーグ平均からみて-20点という数字は不安要素を抱えていたことを示唆している。得失点の観点から見れば、投げてはいいが内容に疑念が残る部分が窺える。ただ、ローテーションを担うエースクラスの投手たちは特筆すべき活躍を遂げていた。高橋光成と今井達也は2桁勝利をマークする一方、平良海馬が先発に回ってからの11勝、隅田知一郎が6月以降に挙げた8勝も、今季への明るい兆しと見てよいだろう。ただし、高橋光成はシーズン開幕に向けて右肩に問題を抱えているが、今井達也を筆頭に残る3本柱はオープン戦で高いレベルの投球を見せている。今井達也は開幕投手に決定し、オープン戦の2試合で9回1失点12三振をマーク。そのスピードボールの平均球速も153.6km/hに達するなど、オフシーズンの間に力を増している印象だ。さらに平良は5回のマウンドで7奪三振、隅田も6回のイニングで10奪三振という抜群のピッチングを堂々と見せた。
それに対してチームの弱点である5番手以降の先発投手の層の薄さが問題となっている。トップ4投手は防御率2.56と安定しているが、5番手以降の投手陣は3.87と、その差は歴然としている。こうした中で、松本航や與座海人が躍動すること、さらにはドラフト1位で入団した新星・武内夏暉の登場に大きな期待が集まっている。加えて、昨季リリーフとしての出場が中心だった青山美夏人やボー・タカハシが先発転向を図り、より層の厚い投手陣を形成しようとしているのが今の西武の状況である。
新戦力が数多く加入した救援陣
23年は防御率が5点台だった増田だが、得点貢献度では22年の内容を上回っていた。今季の復調はデータとしては期待できると言える
リリーフ陣は昨季チーム上位の投球回を担った青山とボー・タカハシが先発に配置転換されたほか、外国人ではティノコとクリスキーが退団。さらに、実績のある佐々木健と森脇亮介が昨年に受けた手術の影響で今季中の復帰は不透明という状況もあり、顔ぶれが大幅に変わることになる。新戦力では、剛速球が武器のヤン、アブレイユの左右の新外国人のほか、昨季ソフトバンクで46試合に登板した甲斐野央が勝ちパターンとしての起用が見込まれ、社会人ルーキーの糸川亮太もフル回転の活躍に期待がかかる。また、田村伊知郎と豆田泰志も急成長を見せており、今季は年間を通した活躍が求められる。
そして、昨季不調だったクローザーの増田達至が復調できるかどうかは気になるところだろう。実は、増田は防御率こそ5点台を記録したが、投球内容は31セーブを挙げた2022年から落ち込んでおらず、今回評価に用いている得点貢献度ではむしろ23年の方が優れていた。クローザーは内容よりも結果が求められるポジションのため、起用法には注意を払いたいが、データ上ではある程度成績を持ち直すことが予想される。
世代交代に成功した捕手陣
西武野手:2023年ポジション別得点貢献度
昨季は前年オフに森友哉が移籍したことに加え、岡田雅利が故障の影響でシーズンを全休。キャッチャーは経験の浅い選手を中心に起用された事情もあり、攻撃面では他球団に後れを取ってしまった。チームの捕手で最多となる98試合でマスクをかぶった古賀悠斗は、リーグトップの盗塁阻止率を記録。11月にはアジアプロ野球チャンピオンシップで侍ジャパンの代表に選出されるなど、多くの経験を積み捕手は世代交代に成功した。
また、昨季の4月に支配下登録された古市尊が二軍でOPS.825を記録。バットコントロールの良さを特徴としており、21歳という年齢的にも今後の成長に期待したい。そして、炭谷銀仁朗が2018年以来6年ぶりに古巣へ復帰した。バッティングでの貢献は望みが薄いものの、レギュラーの古賀を含めたバッテリー陣に豊富な経験を還元する役割が期待される。
二遊間を中心に堅い守備を見せる内野陣
内野は、二塁の外崎修汰が攻守で高い貢献度を記録し、チームで最も強みのポジションになっている。広い守備範囲に加えて、投高打低の環境で二塁手としては優秀な長打力が高い数値につながった。その二塁に次ぐ得点貢献度を記録したのが三塁である。チームの三塁手で最も出場した佐藤龍世は、打撃でリーグトップレベルの出塁率.390を記録しただけでなく、守備でもリーグ2位の得点貢献度を記録している。今季はレギュラーとして活躍が期待されるところだが、オープン戦では結果を残せておらず状態が心配される。代わって、三塁の候補では渡部健人とヤクルトからトレードで加入した元山飛優が好成績を収めており、レギュラー争いは激しさを増している。
そして、ショートは源田壮亮が開幕から約2カ月間の離脱があったものの、リーグトップの守備得点を記録した。入団2年目の児玉亮涼も広い守備範囲が持ち味で、バックアップも不安が少ない状況だ。そして、一塁では高い守備力でチームに貢献したマキノンがオフに退団。代わりに、メジャー通算114本塁打を記録しているアギラーがレギュラーとして予想される。打撃での実績は十分で期待も大きいところだが、守備力を含めた総合力でマキノンを上回る活躍を見せられるかは、注目したいポイントだろう。
不安の大きな外野陣
昨季は3ポジションいずれも大きなマイナスを計上してしまった外野陣。新外国人のコルデロはチーム課題の打力を埋められるか
外野は3ポジションいずれも大きなマイナスを計上しており、チーム最大の課題になっている。昨季はチームの得点がリーグ最少と攻撃面で苦戦したが、外野手の打撃不振が深刻な得点力不足につながっている。この課題を解消すべく、オフには強打が売りの新外国人コルデロが加入した。昨季はマイナーでOPS.879、メジャーでは24試合で6本塁打とパワーは十分であり、NPBの投手に対して適応できるかどうかがカギを握るだろう。そして、残る外野の2枠は、既存選手の活躍に期待するしかない状況だ。
その中で若手有望株として期待されるのが、長谷川信哉と蛭間拓哉の2人だろう。21歳の長谷川は昨季59試合の出場ながら、サヨナラ弾を記録するなど印象的な活躍を見せた。二軍では打率.332、OPS.880と好成績を残しており、今季はレギュラー定着に期待したいところ。2022年ドラフト1位の蛭間は、二軍で打率.298、OPS.827の好成績をマークした。ブレークが待ち望まれる2人ではあるものの、現在はともに二軍で調整中と状況は芳しくない。オープン戦では若林楽人と西川愛也が積極的に起用されているが、いずれも成績は低迷しており、今季も外野陣は大きな悩みどころとなりそうだ。打席数は非常に少ないが、近年振るわなかったベテランの金子侑司が打撃で存在感を示しており、出番を増やすかもしれない。
今年も若獅子打線をけん引する骨と牙
近年のパ・リーグでは、打線の主軸選手が休養も兼ねてDHとして起用されるケースが増えているが、西武では中村剛也と栗山巧の40歳同期コンビが座るポジションになっている。昨季はチーム全体が貧打に苦しむ中、「骨と牙」としてファンから愛される両者はともに前年から貢献度を向上させており、まだまだ健在ぶりを示している。中村剛はケガの影響もあって88試合の出場にとどまるも、チームトップの17本塁打を記録。リーグ内のDHでも優秀な打力を依然有しており、今季も打線の中軸としてチームを引っ張っていきたい。
戦力面で恵まれているとは言い難いが…
松井稼頭央監督が就任して2年目を迎える今シーズン。オフに一定の補強を行ったものの、今季も外野手を中心に戦力面で恵まれているとはいい難い状況だろう。それでも、多くの若手がチームの中心として活躍し始めており、希望は生まれつつある。得点力が課題の野手陣では、近年西武が獲得した外国人野手の中では上位の実績を誇るアギラーとコルデロの両助っ人が加わった。パ・リーグで活躍する助っ人野手は激減しており、両者がともに活躍するようであれば、大きなアドバンテージとなるだろう。
課題となっている外野手でブレークを遂げる選手が現れるかどうかで、状況は一変するチーム編成となっている。