楽天が迎える変革期、新監督の決断が未来を切り開く
開幕投手に抜擢された早川隆久。チームの新たなステージへの期待がかかる
プロ野球の開幕が迫る中、1934年の誕生から数えて90周年の節目を迎える今シーズン、どの球団が頂点に立つのか注目が集まる。春季キャンプやオープン戦を熟し、各球団のメンバーが整うなか、開幕一軍に残れなかった選手や若手の成長もチームにとっては欠かせない要素となっている。このコラムでは、前シーズンのポジション別得失点貢献を踏まえて、来るべきシーズンの各チームの要点と見通しを検証していきたい。分析に用いられる指標は、打撃でwRAA(Weighted Runs Above Average)、守備でUZR(Ultimate Zone Rating)、そして投手にはRSAA(Runs Saved Above Average)を用い、リーグ内の平均を基準として得失点の貢献を見る値である。RSAAの算出には、実際の失点率ではなく、守備の影響を除くtRA(True Run Average)が使用されている。
本稿で述べられた2つの指標、wRAAとRSAAはスポーツナビが行うプロ野球の週間MVP選出にも役立てられており、更なる詳細は下記リンクから確認していただける。
早川の先発で新たな勢力図を描く楽天
投打陣の再編に臨む楽天:2023年得点貢献度
昨シーズンにマイナス30.5の得点貢献度というリーグワースト級の成績を残した楽天の先発陣の中で、実力派の則本昂大が救援へとシフトした。これにより、既存の投手陣にはレベルアップのプレッシャーがかかる。新星となる今季の開幕投手に、今江敏晃監督は4年目で成長著しい早川隆久を指名し、オープン戦での安定したパフォーマンスが続いている。則本に次ぐ得点貢献度を示した荘司康誠も、昨年7月以降は敗戦なしで5連勝。彼ら二枚看板には今季、序盤からの飛躍が期待される。
新加入のポンセ、昨シーズン53試合に登板した内星龍、そしてドラフト1位新人・古謝樹ら新戦力の活躍にも注目が集まる。昨年5月に初勝利を挙げた松井友飛や、9月の最終盤で安定した成績をなした藤井聖のローテーション定着も期待される。経験豊富な岸孝之とメジャー含む通算200勝目前の田中将大のベテラン両投手からも、依然としてチームに大きな影響が期待される。また、20勝を記録した瀧中瞭太や楽天一筋16年目を迎える辛島航の活躍も見逃せない。
則本昂大の新ポジション、クローザーへ
松井裕樹がMLB移籍後、新たにクローザーとして期待される則本昂大
昨シーズンの得点貢献度がマイナス7.5、リーグ5位と期待を下回った楽天の救援陣に、新たな息吹をもたらすべくエース・則本昂大がクローザー転向を命じられた。リリーフ陣の主力だった松井裕樹のメジャー移籍を受け、監督の今江は則本の転向により安定した締めの投手を得ることになる。救援を担う者として、侍ジャパンでの経験もある渡辺翔太や、リーグトップの出場数を誇る速球派左腕・鈴木翔天にも更なる期待がかかる。
渡辺翔と同じく2年目のシーズンを迎える変則右腕・伊藤茉央や、新助っ人のターリー、現役ドラフトで加入した櫻井周斗の両左腕はオープン戦で好投を続けており、キャンプからここまでで救援陣の層は厚くなりつつある。春季キャンプは二軍スタートだった酒居知史と宋家豪の実績組も、オープン戦から一軍に合流して調整を続けている。そして若手では6年目の清宮虎多朗が評価を高めている。春季キャンプでは育成契約ながら一軍メンバーに抜てきされ、春先の練習試合やオープン戦では剛速球で首脳陣にアピールした。変化球の精度に不安はあるものの、持っているポテンシャルはチームでもトップクラスだろう。
正捕手争いは太田光が優勢か
楽天野手:2023年ポジション別得点貢献度
昨季は打撃、守備いずれもリーグ2位の貢献度を記録した楽天キャッチャー陣。高い出塁率やリーグ最多犠打など、バットでも一定の貢献を見せた太田光が正妻候補の筆頭だろう。昨季は3試合の出場にとどまった堀内謙伍、一軍出場がなかった石原彪といった中堅捕手もキャンプから一軍帯同を続けており、レギュラーの座を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
一方、2年連続で開幕マスクをかぶっていた安田悠馬は、キャンプから二軍での調整を継続。コンディションに問題はないものの、今江監督の方針により守備面のレベルアップに取り組んでいる。豪快なスイングは魅力的なだけに、ディフェンス面でも成長を遂げ、正捕手争いに割って入りたい。
日替わりオーダーも可能な内野陣
昨年まで二塁を守った浅村が、今季は三塁へ転向。その他のポジションは流動的な起用になる可能性もありそうだ
二塁手の得点貢献度がリーグ2位とチームにとって最大の強みになっていた楽天。昨季73試合にセカンドでスタメン出場した浅村栄斗は今季からサードにコンバートされ、セカンドは昨季の盗塁王・小深田大翔や5年目のシーズンを迎える黒川史陽などがレギュラーを争う。守備の貢献度がリーグ2位だったショートには、昨季途中から定位置をつかんだ村林一輝の開幕スタメンが有力。今季はスタートから攻守でチームを支え、レギュラーの座を守れるか。オフに育成契約で入団した山田遥楓は春先から実戦でアピールを重ねて支配下登録を勝ち取ったが、村林を脅かす存在になりたいところ。
昨季は一塁、三塁の貢献度は攻守ともにマイナスだったが、サードには昨季の本塁打王・浅村がコンバート。オープン戦でも無難な動きを見せており、今江監督の見立て通りバットへの好影響も期待される。一塁手はここまでのオープン戦で来日2年目のフランコが好成績を残している。レギュラーシーズンでもこの調子を維持できるかは注目だ。このほか、内野手は茂木栄五郎、鈴木大地、阿部寿樹、伊藤裕季也など、複数のポジションをこなせる選手が多いのが特徴だ。相手投手やその時の状態などを踏まえて様々なオーダーを組んでいく形になることが予想される。
不動のセンターが攻守でチームをけん引するか
昨季、得点貢献度でリーグトップの10.1を記録したセンターは外野陣で唯一レギュラー当確といえる辰己涼介が今季も務める。守備だけでなくバットでもさらなる飛躍を見せ、上位打線を任せられるくらいの活躍が期待される。両翼には21、22年のタイトルホルダー・島内宏明と勝負強い打撃を持ち味とする岡島豪郎のドラフト同期コンビが、今季もナインをけん引する。また、春季キャンプ中に右足を故障した小郷裕哉もすでに実戦へ復帰。10本塁打を放った長打力だけでなく、13盗塁を記録した機動力も使える選手だけに、万全な状態で開幕を迎えたい。
その小郷の離脱中に存在感を示した田中和基にも注目。春季キャンプ中の実戦からバットで存在感をアピールしており、18年に18本塁打20盗塁を記録した新選手会長がかつての輝きを取り戻せば、大きな戦力アップとなる。オープン戦では打撃好調な阿部と伊藤裕が外野の両翼としても積極的に起用されており、もともと層の厚かった外野の枠をめぐる競争は激しさを増している。チームにはDHで固定されるようなレギュラー選手は不在のため、打撃成績を伸ばす選手はDHでの起用も見込まれるところだ。
球団創設20周年、育成選手には大きなチャンスも
球団創設20周年のメモリアルイヤーを迎える2024年シーズン。10代目の指揮官に就任した今江監督は主砲・浅村の三塁コンバート、エース・則本の守護神転向など、開幕前から大きな決断を下した。今季から野手キャプテンと投手キャプテンを務める両選手だけでなく、昨季リリーフで活躍を見せた内を先発に、プロ入り後は主にサードやショートで出場を続けてきた茂木をオープン戦でファーストやセカンドでも起用するなど、さまざまなテコ入れを敢行し、大胆なチーム改革を進めている。
チームの陣容を見ると、現時点で支配下登録選手は64人と枠が大きく空いている。外国人選手の追加補強も考えられるが、上位を狙うには既存戦力の底上げが絶対条件といえるだろう。また、育成選手にとっては支配下登録をつかむチャンスが十分にあるともいえる。新体制のもとでチーム一丸となり、「いただき」をつかめるか。