大谷翔平という名の新たな歴史ページ
ドジャース対パドレス戦で、大谷翔平が4号本塁打を放ち、MLB通算175号の松井秀喜選手の記録と並ぶ
その日は、もし何も事件がなければ、ただ一人の元通訳の騒動についてメディアが溢れていただろう。大谷翔平所属のドジャースの前通訳、水原一平容疑者にまつわる報道がその日、4月12日のメインテーマになるはずだった。
米連邦検察は前日、銀行詐欺の疑いで水原容疑者を告発したと発表し、同時に長文の起訴状も一般に公開された。その内容はすでに多くのメディアで報じられているため、ここでは省略するが、スマートフォンに残された水原容疑者の記録からは、繰り返し賭け金を増額してほしいと懇願する彼の姿や、どのようにして違法賭博業者に追い込まれていったかが描かれている。更には、大谷選手の銀行口座への手際よいアクセス手法も明らかになった。
12日には、これだけで十二分に衝撃が走るニュースだったが、水原容疑者は自ら出頭し、裁判に臨んだ。その際、足かせをされている姿が目撃され、報道を受けて多くの人々が驚愕した。
この出来事をどのように伝えるか検討する間にも、その日の試合は既に開始されていた。
初回の表、大谷翔平がバッターボックスに立つ。カウント1ボールの場面で迎えたマイケル・キング(パドレス)からの2球目を見事にとらえ、左中間に向かう球は絶妙な放物線を描いた後、観客席で待ち受けるファンたちの中へと着地した。
これがメジャー通算175号本塁打となり、伝説の松井秀喜(ヤンキース他)と肩を並べる記録に到達した。このエポックメイキングな一撃が響き渡る間もなく、記録に並んだ本塁打が飛び込んだ左中間スタンドへと足を運んだ。
大谷翔平の歴史的本塁打をキャッチしたファンの選択
9日前の出来事に遡ると、大谷のシーズン初ホームランの際に小さな波紋が広がっていた。記念すべき球が観客によってキャッチされた後、セキュリティによるやや手荒な方法での返却要求が話題となったのだ。提示された条件は大谷のサイン入りのグッズだったが、そのファンは「もし応じなかったら、本物であることを保証するシールを貼ることを拒否された」と、アメリカのニュースで公表していた。
結局のところ、ドジャース側はそのファンを12日のゲームに招待することで問題が解決されたが、今回またしてもどうなるのだろうか。ファンは何と感じているのか?
急ぎ足で現場に辿り着いた私は、ボールをキャッチしたカップルがセキュリティと何やら話をしている場面に遭遇した。近づいて彼らと話を交わすと、二人は「このボールは自分たちが持っておく価値がある」と語りながら、夢中でそれを眺めていた。
イニングが終わり裏通路で再び話を伺うと、ボールを握りしめた女性は震える手で、「松井秀喜の記録なんて知らなかったわ」と驚きと無邪気さを交えて明かした。
「え、本当に?」周囲にいた他の観戦者が、「そのボール、高く売れるよ!」とアドバイスを送る。
「それを聞いても、このボールは私にとってもっと価値のある記念品になったの」と、彼女は迷いなく述べた。
その彼女の隣にいた男性も、「大谷翔平のホームランボールをキャッチするなんて、人生で一度のこと。記念になるよ」と明るく話していた。
ボールには確かに「S1」というマークが刻まれていたのは、ビッグショットな球だということの証明だろう。
大谷翔平が松井秀喜選手の記録に並んだときの記念すべきボールには、「S1」のマークが刻印
この種の特別なボールは通常、記録的な瞬間用にのみ使用され、イチロー選手がメジャー3000本安打を達成した際には、「4」という数字だけが刻印されていた。
ただ、将来オークションに出品しようにも、このマークだけでは正当性を証明するには不十分だ。因みに大谷がバッターボックスに立つ時、毎回同じマークが刻印されたボールが使用される。よって、ファウルボールが打席から飛び込む度に、同じマーキングのボールを持つ複数のファンが現れることになる。
通常、MLBによる認証シールをボールに貼ることで、その真偽が証明されるのだが、彼らが持つボールにはまだシールがない。シールを要求すれば可能だろうが、彼らはその必要性を感じていないようだった。
ファンとの対話を急いで終えてプレスボックスに戻る頃には、試合はすでに中盤を迎えていた。そうこうしているうちに、水原容疑者に関する報道はすっかり脇に置かれ、もはや遠くの思い出のようになっていた。
スポーツベッティングの盛んな現代のMLB
最新のスキャンダルを通して、アメリカにおけるスポーツベッティングの実態が光を当てられている。過去には禁止されていたが、今や日常の一部と化している。
1992年、スポーツ賭博は連邦レベルで禁止されていたが、2018年に最高裁がその禁止を撤廃。その結果38州がスポーツ賭博を合法化し、MLBも含めた各団体はスポーツブックと手を組んでいる。たとえば、シカゴ・カブスはドラフトキングスという著名なオンラインスポーツブックと提携し、球場内に店舗をオープンさせている。
このドラフトキングスはリグリー・フィールドにあるが、ワシントン・ナショナルズのホームではBetMGMがスポーツバーの形で進出。さらにアリゾナ・ダイヤモンドバックスのチェース・フィールドでは、ラスベガスのカジノホテル大手であるシーザース・エンターテインメントがスポーツブックを開業している。
リグリーフィールドの端に位置するドラフトキングスのブース
かつてブラックソックス事件やピート・ローズの賭博問題があったMLBだが、スポーツ賭博解禁の波に乗り、慎重さを保ちつつも利益を伸ばす方向に舵を取っている。自動化されるであろう将来のロボット審判も、この背景の一環だ。誤審問題から審判の物理的安全への懸念、ビデオリプレイの受け入れなど、誤審を減らす進歩が持続している。
大谷翔平の積極的な打撃と今後の展望
シーズン序盤に於ける大谷の注目されたホームランだが、最大焦点となっているのは彼の得点圏に低い打率だ。4月16日時点で、彼は19打数1安打と非常に低い打率を記録している。このことは、ダベ・ロバーツ監督も記者会見で言及され、「まだ試合数が少ない」と一蹴していたが、その後の試合では得点圏での無安打が続いている。
しかし大谷の昨シーズンまでの得点圏での打率は平均よりも高く、通算でも良い数字を残している。多くの場面で初球を打った場合の成功率も良好で、キャリア通算の初球打ちの打率は.406と優れている。ゆえに、彼の攻撃的スタンスを制限することは、二面性を持つ判断になるだろう。
2004年、第一に打席で見積もったイチローは制限を解除された後に盛り返し、シーズン最多安打記録を更新するなどの成績を収めた。
これからの大谷にとって、「初球はストライクゾーンの外側に行く球」が攻略のカギになりそうだ。特に、投手としての大谷の能力も考慮すると、彼が打席でどのようにその積極性を活かすかが興味深い。17日の試合で彼は初球、ストライクゾーン外の投球を見逃し、何らかの変化を検討しているかのようだった。