メッツの左腕ピッチャー、大谷翔平への内角攻めの戦略を語る
4月19日のメッツ戦で見せた大谷のマネイアからのタイムリーヒット
「大谷を攻略する策は?確かにインハイがキーポイントだね」
その戦術を率直に語るのは、4月19日のゲームでスターティングピッチャーを務めたメッツのショーン・マネイアだ。翌日にデーゲームの試合前に、彼と話す機会があったことを思い出す。同じ大学出身の後輩は話しをこのように続けた。
「インハイで行けば、ホームランの可能性は低いだろう。もし打たれても、ヒットにとどまりそうだ。早いカウントでそれを試せば、空振りかファールを引き出し、優位に立つチャンスがある」
実際のところ、現在の大谷翔平(ドジャース)を対峙する際は、初球からのインハイ攻めが一つの定石となっている。それは、マネイアのような左投手であろうが、右投手であろうが、変わらない。
マネイアとの対戦を含む前のデータでは、大谷への投球は全367球で、インハイのストライクゾーン内だけでも29球だった。その外側を含めると全体で80球にのぼる。これは全体の22%を占める。
特にインハイのストライゾーン内29球では、その16球は2球までの投球だった。そして、29球の内25球に対して大谷はスイングをしており、その内18球が空振りかファールで終わっている。ヒットはたったの1本、打率は.111という結果だ。
しかし、このエリアが苦手というわけではない。前年度のデータを見ると、インハイのストライクゾーンでスイングした時、72打数23安打、打率は.319で、7本塁打を記録している。これは対戦チームにとっては一定のリスクを伴う。
昨年の統計からは、ストライックソーンを9分割した際に最も空振りが期待できるエリアとして38%という数字が示されている。そして、平均的な打球速度に関しては外角低めが89マイルと一番低い一方で、内角高めとベルト付近の内角は94マイルに達しており、打席内でどこで勝負するかはもちろん、内側への配球は有効な選択肢となる。
ショーン・マネイア氏本人
ただし、マネイア自身は「インハイを打ち取りのコースとするわけではない」と指摘する。
「有利なカウントを築いた上で、終盤はやはり外角低めが狙いだ。右投手であればチェンジアップ、左投手であればスライダーが鍵となるだろう」
この配球戦略については後で改めて詳述するが、そうしてマネイアは4月19日の試合でどのように大谷を攻略したのか。特に印象に残る5回のタイムリーヒットを放った打席でのピッチングを思い返す。
大谷が避けるコースとは?
大谷へのマネイアによる5回目の対決
- ① スイーパー/空振り/78.7マイル
- ② スイーパー/ボール/80.7マイル
- ③ チェンジアップ/ファール/86.6マイル
- ④ スイーパー/ファール/80.2マイル
- ⑤ チェンジアップ/ボール/87.5マイル
- ⑥ スイーパー/右前ヒット/78.6マイル
この対決において注目すべきは、マネイアが一球もインハイを狙わなかったことだ。前回の打席ではスイーパーやシンカー、4シームも全てが外角中心だった。初回の打席に関しても、唯一内側へ抜けたスライダーが1球あったが、インハイへの意図的な投球は確認できない。マネイアにこの配球について尋ねると、複雑な表情で答えた。
「正直言って左バッターへのインハイへの投球は少し恐怖を感じる。自分のストレートは失投しやすいので、打者に当ててしまいそうなんだ」
つまり、マネイアは大谷に対して投げ辛さを感じていたということか?
「確かに不利なポイントだ。左バッターへのインハイへの投球が難しいというのはおそらく大谷も把握していて、攻めの姿勢を見せてきた。あの5回の打席で、初球のスイーパーが微妙な球になってしまい、そこはひやりとしたね」
試合が進む中で、マネイアは変化球を多用して対応しようとした。
「4球目に投げた外角低めのスイーパーは、決して悪いコースではなかった。ただそれをファールされてしまって、力ずくで引っかけてもらいたかった。最後の球は少し浮いてしまったけれど、結果的にうまく角度を取ることができたんじゃないかと思う」
その4球目のスイーパーは理想的な投球であったし、2球目も悪くなかった。マネイアが言及したように配球の組立自体は計画通りだったが、2球目は見送られ、4球目はファールで返されたため、配球に苦しむ局面が生まれてしまった。
昨年であれば、どちらの球であってもストライクを奪うことができたはずだ。特に4球目なら三振を取る可能性があっただろう。しかし今年の大谷はそうした外角低めの球をほとんど振らなくなっているのである。
取り分け、今年の大谷が振りにくいボール球のコースを見ると、外角低めの球はほとんど振っていないことが分かる。
今年、大谷がほとんど振らなくなった、ボール球コース(4月21日現在)
次に、左腕投手からのボール球の投球コースデータ(下の図、左側)からは、ストライクゾーンを外れる場合にほとんどが外角低めへと集中しているのがわかる。では、大谷が外角低めのボール球をどれだけ振っているか(下図、右側)。分析すると、実質1球にすぎない。
今年、左腕から受ける大谷のボール球コースに対してのスイングデータ(4月21日まで)
昨年はどのようだったかというと、
図の左側は、昨年の左腕投手の全ボール球投球コースを示しており、外角低めへの集中している球数の多さが目立つ。そして、大谷が実際に振った回数も、それなりに高い頻度が確認される。
昨年、左腕から大谷へのボール球の投球コースとスイングデータ
その外角低めのボール球のスイング率を計算すると、昨年は16.3%となるが、今年は0.5%にまで減少している。
外角低めのスライダーで振らせたい左投手と、それを見逃すことの多い大谷の間には駆け引きがある。外角低めのボール球は、結果的に投手を苦しめることになる。不利なカウントを背負った状態でストライクゾーンを試されると、大谷がそれを捕らえることでバッティング平均は自然に上昇する。
マネイアとの5回目の対戦―この打席で見せたタイムリーヒットは、今季の大谷のバッティングを象徴する場面と言えるだろう。