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 2024/05/15 14:26

大谷翔平が松井秀喜氏の記録を超えることの意義


4月21日、メッツ戦で記録的な176号本塁打を果たした大谷翔平。松井秀喜氏の記録を更新

4月21日、メッツ戦で記録的な176号本塁打を果たした大谷翔平。松井秀喜氏の記録を更新


"日本の野球史において、これは重要な出来事だと感じています"


 4月12日には、大谷翔平(ドジャース)が左中間を破るホームランを打ち、その瞬間、MLBでの自身の通算ホームラン数が175に達し、これまで松井秀喜氏(ヤンキース他)が持っていた日本人メジャーリーグ選手による最多記録と並んだ。野球の試合の後、大谷はそのように述べたが、何となく抽象的で、はっきりした意味を探るのは難しかった。


 そこでリアルタイムでの確認を試みる状況にはあったが、試合直後の質疑応答の場では、取材に訪れた人々が早速取り囲み、私が到着した時には既に人の壁ができていて、彼の発言をクリアに聞取ることができなかった。


 通常、大谷の囲み取材はアメリカンメディアと日本のメディアに分かれて行われる。もちろん、アメリカンメディアの囲みに日本のメディアが参加することは可能だが、質問はできない。しかし、それにより重複する質問を避けることが可能となり、大谷自身も同じ質問に何度も答える必要がない。


 報道関係者として守るべきルールは、基本的にはこれくらいだが、質問をする際には通常1人につき1〜2問が限界で、皆が質問したいと思っているため、一人が5〜6問も質問してしまうと、時間制限の中で聞けなくなる人が出てしまいがちである。通常、プレス担当者が「ラストクエスチョン!」と告げるのは10分経った後くらいのことだ。時には、7分程度で急に終了することもある。


 質問に対する大谷の回答がどうなるかは予期できないため、必要な確認やそれに付随する質問をさらに1つ加えて、つまり合計で2つまでならばというふうに暗黙の了解が徐々に形成された。もちろん、これは強制されるものではないが、ある程度は受け入れなければならないルールである。



大谷翔平の報道を担当する記者としてのジレンマ


ダグアウトで微笑む大谷翔平

ダグアウトで微笑む大谷翔平


 それでは、具体的に何を質問するかは、大きく分けて2通りの方法がある。自らが設定したテーマに基づいて質問を用意するか、もしくは話が進む中で大谷が言及したポイントを深掘りするかである。それは一種のジレンマとも言える。後者の質問は他の誰かがしてくれるかもしれないが、それは保証されていないわけで、自分の知りたい事を聞き逃してしまうと、それを再度聞ける機会がいつになるかは予測できない。したがって、一般的には前者のアプローチを優先するのだが、松井氏の記録に並んだあの夜は、なぜ日本球界にとって影響が大きいのか、その理由を知りたかった。何かメッセージが込められていると感じられたからである。


 将来、もう一度質問する機会があるのだろうか。そんな疑問が長らく心に残っていたが、このケースのように再度のチャンスがある場合もある。それは記録を超えた時である。その日は9日後のメッツ戦に訪れた。瞬く間のことだった。右翼手のスターリング・マルテ(メッツ)はただ手を後ろに組み、何も動かずに、ボールが飛んでいく方向を振り返ることもなかった。


「ボールが打席を離れた瞬間にホームランだと確信があったんだ」


 マルテは通訳を介してそのように語ってくれたが、実際にはその瞬間、壮麗なホームランだと明確にわかる一打だった。


 この日も、大谷のプレス会議は早くから始まった。廊下で待機している間に、約30m先のメディア用ボードの前に、ユニフォーム姿の大谷が登場した。取材陣が一斉にその場所へ向かい、前列で取り囲むことができたならば、アメリカンメディアの質問が始まる前に難なく自分の質問を通じることができる。しかし、「なぜ日本球界にとって大きなことなのか」という質問は出てこなかった。


 アメリカンメディアの質問時間が終わった後、最初に聞いた。


「松井さんと同数の記録に並んだ時、それが『日本の野球界にとって大きい』と言ったが、その真意は?」と。


 その問いに、大谷は、「ええ、その通りですね」と一呼吸おいてから答えを始めた。


「やはり、長打力を駆使して攻撃するスタイルは、体格に恵まれない場合はなかなか難しいもの」


 彼の次の言葉が待ち遠しい。


「そのため、そういう意味では、日本のバッターもより多くの選択肢を持てるようになって、バッティングの目標というものが、より広範囲に渡り、高いレベルを目指すことができるんじゃないかと」


 「バッティングの目標の幅」―これこそが大谷が伝えたかったキーメッセージだった。



ホームランが拓くバッティングの新たな地平


松井秀喜氏が昔ながらのファンの前でのびのびと振るう、昨年9月のヤンキース「オールドタイマーズ・デー」にて

松井秀喜氏が昔ながらのファンの前でのびのびと振るう、昨年9月のヤンキース「オールドタイマーズ・デー」にて


 メジャーリーグでの日本人選手が抱えるある種の偏見について考えを巡らせば、身体的な特長と長打力があるなら、それを最大限に活かしたプレイを心がけるべきである。メジャーでは日本人のパワーは通用しないかもしれないという誤解が存在するけれど、それは根本的な誤りである。日本出身の選手がメジャーリーグで本塁打王になるなど、歴史的な快挙は想像もされていなかった。だが、自分自身に設けた枠を取り除くことで、後続の選手たちに進むべき道を示すことも出来る。ホームランの数への執着は、そのためにも意義がある——。


 本塁打の役割についても、「バッティングを豊かにするための一環」と語った。


「フォアボールだってあるし、シングルヒットやダブルヒット、そしてホームランまであるんだ。可能性を広げながら、ホームランがあるかないかで相手投手へのプレッシャーへの影響は変わるし、投球内容にも若干の変化を与えることができる。それが自己の強みでもあるから、これからもしっかりと育てていきたい」


 勿論、そのためには全ての選手が大谷の後を追うわけではない。しかし、誰かがそのステップを踏み出さなければ、既成概念は変わらない。二刀流にしてもこの法則は同じで、仮に大谷が果たせなかったならば、サンフランシスコ・ジャイアンツが2年連続で二刀流選手を一番目にドラフトで指名することは想像もできないだろう。また、今年のドラフトの初回のピック——特にトップ5に指名されることが期待されているフロリダ州立大出身のジャック・カグリオーンも、仮に大谷がいなければ、メジャーリーグで二刀流を目指すこと自体がなかったのかもしれない。


「それは、日本の野球界にとっても重要なことだ」


 漠然とした言葉が、ようやく理解でき、鮮明になってきた。