横山典騎手、誠実な皐月賞辞退がダノンデサイルに輝かしいダービー制覇をもたらす

横山典弘騎手率いるダノンデサイル、皐月賞の不運を乗り越え、3歳馬7906頭の王者に

第91回東京優駿（通称：日本ダービー）が5月26日に東京競馬場2400mの芝コースで行われ、9番人気ダノンデサイル（牡3歳、栗東・安田厩舎、父エピファネイア）が横山典弘騎手の見事な手綱さばきにより優勝を飾った。依然として最後の直線において他馬を凌駕し、皐月賞の悔しさを晴らすような勝利で、3歳馬7906頭の中で頂点に立ったダノンデサイルの勝ちタイムは2分24秒3であった。

ダノンデサイルは今回の勝利によりJRAで5レース出走し3回の勝利を遂げると同時に、重賞は2回目の勝利となり、前回の勝利は今年1月に達成した京成杯である。横山典騎手にとっては2009年のロジユニヴァース、2014年のワンアンドオンリーに続き、日本ダービーで3度目の勝利という快挙を成し遂げ、56歳3ヶ月でのJRA・GI勝利としては最年長記録を更新する偉業を達成した。同馬の管理を担当する安田翔伍調教師にとっても、これが大変快いJRA・GI初勝利となった。

一方で、戸崎圭太騎手が騎乗していた皐月賞の1番人気馬ジャスティンミラノ（牡3歳、栗東・友道厩舎）は2馬身差でダノンデサイルに敗れ、二冠の達成は叶わなかった。2着から1馬身1/4差後には、7番人気のシンエンペラー（牡3歳、栗東・矢作厩舎）が坂井瑠星騎手のもと3位に輝いた。

皐月賞での辞退が、後に正しい選択だったことを証明

横山典騎手が大歓声の中でヘルメットを取り、礼を言う姿が印象的だった

JRA70周年を迎えた記念すべきダービーは、言葉に尽くせないほど印象深いレースとなりました。ダノンデサイルの背には、経験豊かな56歳の横山典騎手。無敗の皐月賞チャンピオン、ジャスティンミラノを2馬身の差で退けたそのパフォーマンスは、圧倒的でした。それは今となっては皐月賞での右前肢ハ行に伴う辞退からの大きな飛躍だったとのことで感嘆に値します。

「皐月賞の際の自身の決断は誤りでなかったと実感しています。厩舎のスタッフと共に努力を重ねた結果、皐月賞を辞退したことでダノンデサイルの将来性を保つことができたと認識しており、馬に感謝の気持ちでいっぱいです。」

横山典騎手が言及した、皐月賞のスタート直前に取った決断。一生のうち一度きりの可能性があるシーンで出走を辞退する悔しさは計り知れず、発走前の馬上で感じ取ったわずかな違和感を見逃さなかったその慎重さが、この日の栄光に結びついたのです。

ダービーまでの6週間、精神力のメンテナンスに苦労

皐月賞辞退から持ち直した6週間、厩舎にとっては困難な時期だったがダノンデサイルは見事な立ち振る舞いを見せた

「スタッフが一番大変だった」と横山典騎手が振り返るように、皐月賞からの6週間は困難を極めましたが、安田調教師はそう語っています。

「調教において負荷をかけるのはそれほど複雑ではありませんでしたが、精神的な面での成長、集中力の保持という点ではかなり大変でした。」

右前脚挫跖のために皐月賞を辞退したものの、その後の症状はすぐに改善し、一刻も早く調教に復帰しました。物理的な問題は既に解消されていたのです。しかし、デビュー前から気が荒く、口向きに問題を抱えていたダノンデサイルを、ジョッキーや厩舎、そして牧場の全員が気をつけて育て上げました。激しい調教のなかで馬の心が乱れてしまわないようにと配慮したのです。

一歩一歩、着実に向上し続けていたダノンデサイルにとって、ダービーの1週間前のハードトレーニングは大きな挑戦でしたが、このトレーニングを乗り越えたことで、精神的な成長を遂げたことが伺えます。

「先週の追い切りからレース当日まで、馬が落ち着くよう努めましたが、その間、彼は驚くほど穏やかになっていきましたし、この日の装蹄所やパドックでも精神的にもコントロールされており、周囲の考え以上に成長していたのです。」

驚異的な才能を持った無敗の皐月賞馬、2馬身のクリアな差で勝利

レース中盤の好ポジションから堂々と内ラチ沿いを駆け抜けた姿は印象的

レース当日は、スタートから中盤までの展開で好位を維持する見事な策略で戦いました。このレース戦略について横山典騎手は次のように述懐します。

「予想される先行馬（メイショウタバル）が欠場となったことで、レースペースは普通、あるいはそれ以下を想定しました。スタートを無事に決められれば積極的にレースを進める意向でいましたが、結局は岩田騎手が進出してくれたおかげで理想的な位置につけ、最後の直線への我慢比べが可能になりました。」

横山典騎手の冷静な判断のもと、前半1000mは62秒2というスローペースで進行。後方から池添騎手が騎乗するサンライズアースが先頭集団に迫るシーンもあったものの、横山典騎手は落ち着いたままポジションを守り続けました。

「馬が気持ちを察してくれ、終始最高のポジションをキープしてくれたのです。直線を迎えたときには、冷静に、焦らずに追い込みたいと考えていました。この馬は非常にリズミカルにレースを進めていたので、進路を見つけ次第、素晴らしい脚を見せてくれると信じていました。」

コースのほとんどが閉ざされた状況の中、横山典騎手が大胆にダノンデサイルを先頭に導いたのは、卓越した勇気と技術の証明でした。

「馬の反応は驚くほど良く、久しぶりのレースの緊張を微塵も感じさせず、ゴールまで力強い走りを見せてくれました。この馬の持つ素晴らしい能力を改めて実感しました。」

皆で成し遂げたダービー勝利が何よりも嬉しい

JRA・GIで最年長の勝利を収めたが、横山典騎手はチームで勝利を分かち合えたことに最も喜びを感じています。

無敗の皐月賞馬に与えたその差は2馬身。完勝とも言えるレース運びでした。横山典騎手自身が「まだベストの走りではない」と語り、安田トレーナーも「最高の調子でレースに送り出せたものの、完璧とは言い難い」というコメントを残しており、今後の成長に期待が寄せられます。

「馬も体より心が成熟しているが、夏休みを経て更に体力が付き、次のレースでさらに進化した姿を見せてくれると確信しています。秋のレースも無事にこなして欲しいし、非常に楽しみですね。」

この勝利で横山典騎手は歴史に残る3度目のダービー制覇を成し遂げるとともに、最年長記録を更新するJRA・GIの栄誉を手にしました。しかし横山典騎手にとって、最年長記録への執着よりも、チーム全体で勝ち取った喜びが何よりも大切な事と感じていました。

「個人の成績よりも、みんなでダービーをめざして勝ち取れたことに大きな喜びを感じています。それが全てです。」

横山典騎手の達人の手腕と、突出した才能を持つダノンデサイルが秋の競馬シーンにおいて、ダービーを超える印象的な戦いを繰り広げることでしょう。新たな星が日本競馬界に輝きだしました。