弱気の虫を叩き潰すかのように!大迫勇也から
大迫勇也のヴィッセル神戸への貢献
大迫勇也がヴィッセル神戸にもたらしたものとは何か? 優勝決定試合でカメラマンが見た“半端ないエースの猛ゲキ”、「弱気の虫を叩き潰すかのように」
武藤嘉紀は涙ぐみ、ベンチでは初瀬亮が祈っていた。4分と表示されたアディショナルタイムは、もういつ終わってもおかしくなかった。大迫勇也は何度も両手を広げ、もう「その時」が来ているはずだ、とレフェリーにアピールしていた。
歓声で笛は聞こえなかったが、カメラのレンズ越しに大迫がそれまでとは違う手の広げ方をしたのを目にして、試合が終わったことがわかった。
優勝試合での大迫のリーダーシップ
優勝を決めたこの試合でも、そんな場面があった。
神戸が2点をリードした前半26分、佐々木大樹が稲垣祥に倒されてFKを獲得。この際、佐々木は腹部を痛めたようだった。痛む箇所に手を当てながら立ち上がってポジションにつこうとする佐々木に大迫が声をかけた。大丈夫なのかを確認し、ほどなくプレーが再開された。
直後の29分、佐々木はビッグチャンスを迎えた。中谷進之介のタッチが流れたところに反応してボールをものにすると、ペナルティエリアに抜け出し、GKランゲラックと1対1。しかし、シュートは枠をとらえることが出来なかった。痛みが精度を狂わせたのか、それともプレーが切れたタイミングで痛みが襲ってきたのかはわからないが、彼は再び腹部に手を当ててうずくまった。
1点差に迫られた直後、弱気の虫を叩き潰すかのように…
佐々木はフィジカルと運動量を武器に戦う今の神戸のプレースタイルを体現する選手だ。だが、このまま強度の高いプレーを続けられるのか心配になるほど、顔は苦痛に歪んでいた。
立ち上がってもかなり痛そうな表情の背番号22を見て、大迫はすぐに合図を送った。ベンチにではなく、佐々木に対してだ。
大迫の表情は落ち着いていた。隙を逃さずにボールを奪いシュートを放ったことについては拍手で継続を促し、続けて自身の胸に軽く手を当て、アカデミー出身の24歳に冷静さを保たせようとした。
わずか1分後、神戸はキャスパー・ユンカーにネットを揺らされ、1点差に迫られる。この日のスタジアムは、試合前から初優勝への期待による高揚感に満ちていた。しかしユンカーのゴールによって、趨勢は一気にわからなくなった。
VARによるゴールチェックを待つ間、神戸の選手たちはあちらこちらでコミュニケーションをとっていた。大迫は扇原貴宏と笑顔も交えて話し合うと、次に佐々木を見た。
決定機を逸した直後にチームが失点し、痛みも依然として残っている――そんな佐々木に、今度は静かな表情でも笑顔を交えてでもなく、激しい表情で檄を飛ばした。そして大迫は、自らのユニフォームのエンブレムのあたりを強く叩いた。まるで、弱気の虫やネガティブな気配を叩き潰すかのように。
優勝を背負って
その象徴となるようなシーンを、優勝がかかった大一番でも目の当たりにさせられた。なおも歓喜が続くピッチにカメラを向けながら、優勝して然るべきチームだ、と誰に言うでもなく胸の内でつぶやいた