【オークス】チェルヴィニアの驚異的逆転劇、ルメール騎手と再興を遂げる
ルメール騎手が導く、復活の女王チェルヴィニア。桜花賞13着の屈辱を乗り越えての栄冠
3歳牝馬の頂点を決める戦い、第85回GI優駿牝馬(オークス)が5月19日に東京競馬場の芝2400mコースで繰り広げられ、クリストフ・ルメール騎手が騎乗する2番人気のチェルヴィニア(牝3、調教師:木村哲也、父ハービンジャー)が見事にゴールを制した。中団からの追い込みにより、快走を展開し、2分24秒0という優れたタイムで桜花賞における過去の不遇を払拭した。
今回の勝利により、チェルヴィニアはJRA通算5戦3勝目を飾り、重賞も2023年アルテミスステークスに続き2度目の栄光を手にした。ルメール騎手にとっては、2017年ソウルスターリング、18年アーモンドアイ、22年スターズオンアースに次ぐオークス4度目の勝利であり、トレーナーの木村哲也にとってはこれがオークス初勝利となった。
桜花賞を制したステレンボッシュ(牝3、調教師:国枝栄)は惜しくも半馬身差で2着となり、二冠の夢は果たせなかった。3番人気ライトバック(牝3、騎手:坂井瑠星、調教師:茶木康夫)がさらに1馬身3/4差で3着に入った。
帰還を信じる騎手、厩舎、そしてファンの物語
前走の失意を振り払い、オークスでの支持を集めたチェルヴィニア。そこには騎手、厩舎、ファンの改善への意志があった
「正直、今回の2番人気には驚きました」と語る木村哲也調教師。その言葉は、オークスに挑んだ日のチェルヴィニアに寄せられたファンの期待を映し出している。昨年の未勝利戦の衝撃とアルテミスステークスでの圧勝パフォーマンスが、多くのファンに彼女の未知なる潜在能力を信じさせたことを物語っている。チェルヴィニア陣営にとってもそれは同様で、桜花賞における不本意な結果からの復活に向けた取り組みが、厩舎スタッフを含め周りの全員に大きな挑戦であったと木村厩舎は感謝の念を込めて述べた。
そして、その復活を最も信じて疑わなかったのが主戦騎手、クリストフ・ルメールだった。
「追い切りの段階で、彼女の力強い様子を目の当たりにして、良い手応えを感じ、コンディションも上々であることが分かりました。前走の桜花賞は休養明けで不利な外枠にもかかわらず、彼女の能力を信じていたため、自信を持ってレースに臨むことができました」
一気に前を捉える圧巻の追い込み
オークスの直線で圧巻の追い込みを見せたチェルヴィニアは、夢の二冠を目前に控えたステレンボッシュをゴール直前に差し切った
レースはスタート直後からヴィントシュティレとショウナンマヌエラのスピードで先行、始まったばかりの戦いで57秒7の驚異的なペースにファンからは歓声が沸き起こった。しかし、この二頭によるペースメイクの影響は後続馬群には及ばず、団子状態で展開が進んだ。特に中団グループに位置したステレンボッシュとその外側を追走するチェルヴィニアは、戸崎圭太騎手の緻密な騎乗が光る静かな展開で、オークスの舞台を静観していた。
「2400mの距離ですから、じっくりと我慢し、4コーナーまで時間をかけたかった。馬もリラックスしており、呼吸も良好だったので安心していました」とルメール騎手は説明する。
そして最終直線で、ルメール騎手はチェルヴィニアを外へ導き、ゴール手前で先頭に立ち二冠を目指すステレンボッシュを捉えて見せた。
「彼女の本当の力がこの直線で発揮されました。返し馬の際は柔らかな彼女も、レースでは非常にパワフルに変わります。これが彼女のスタミナと走りの素晴らしいコンビネーションであり、これにより彼女はトップレベルの競走馬へと昇り詰めました」とルメールは称賛を惜しまなかった。
今年最初のGI勝利へ、ルメール騎手が見事なカムバック
ドバイでの事故から復帰したルメール騎手、GI初勝利を妻と医師への感謝と共に祝う
落馬事故後の甦りを見せたルメール騎手は、自らの復活劇とも言える瞬間に心を寄せた。3月30日にドバイターフでの不幸な事故に遭い、約一か月間の休養を余儀なくされた。5月5日のカムバック以降、NHKマイルカップとヴィクトリアマイルのGIで2位を連続で飾り、彼の存在感はいっそう明確となったが、今年のGI戦線への最初の勝利は、まさに完全なる復活の証明であった。
「勝つことができたのは妻とドクターのおかげです」と感謝を述べながらも、ルメール騎手は自身の傷が深いとは話さなかった。彼の思いは、落馬事故で亡くなった同僚の藤岡康太騎手に向けられていた。
「騎手としての痛みは少ないです。これは私たちの仕事の一部ですから。4月10日、藤岡康太くんが事故で亡くなりました。彼と彼の家族はもっと苦しい時を過ごした……わたしの怪我はその比ではありません」
日本ダービーでの挑戦、ルメール騎手と木村厩舎の完璧なシンクロ
来週の日本ダービーではルメール騎手が木村厩舎のレガレイラとのタッグで2週連続の勝利を狙う
苦難を乗り越えて勝ち取ったこの優勝は、2016年オークスで2着に終わった母チェッキーノの願いを満たすものである。孝行娘チェルヴィニアは、「最初の動きを見た瞬間から凄いと感じた」と木村調教師が絶賛する素質であり、秋の大一番へ向けて力を蓄えることになるだろう。また、ステレンボッシュ、アスコリピチェーノとの秋に予定される大舞台への期待も膨らむばかりだ。
来週、ルメール騎手&木村調教師の黄金コンビには、ダービーというもうひとつの大きな戦いが控えている。皐月賞で6位に終わったレガレイラを鞍上に、再び反撃を期す。オークスの勝利パターンに似ているが、牝馬という差を覆すのは決して容易ではない。それでも、昨年イクイノックスでの世界制覇と、今回のカムバックに成功したルメール騎手の技量を考えれば、ダービーの戦いへの期待はさらに高まる。
「来週のダービーもまた牝馬で勝ちたいですね。最高のコンディションで、良い結果が得られると信じています」
ルメール騎手の確固たる言葉に、ファンならずとも、強い信頼感を抱かざるを得ない。