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 2024/05/15 15:42

山本由伸の変革期とバーンズの巧妙なサイン配分


ドジャース所属・山本由伸とオースティン・バーンズの息の合ったバッテリー

ドジャース所属・山本由伸とオースティン・バーンズの息の合ったバッテリー


  • .714から.143へ


 ドジャースの山本由伸のフォーシームへの対応力が目に見えて向上している。初めの数値は、4月12日のパドレス戦と4月19日のメッツ戦で右バッター相手に記録された山本の被打率であり、次が無失点を記録した4月25日のナショナルズ戦と5月1日のDバックス戦の被打率。


  • 4.68と0.00の落差


 そして次のデータは、前者がウィル・スミスと組んだ際の山本の防御率を表し、後者がオースティン・バーンズとのバッテリーを組んだ時の防御率である。前述の被打率の変遷とも繋がりが見られる。


 フレーミングやブロッキングの技術面では両者に大差はないものの、クレイトン・カーショウを筆頭とする投手陣の"個人投手専用"捕手としても知られるバーンズにスミスとは一線を画す配球が見られる。


 まだ比較可能なデータ数が多くないため、これが絶対的な攻め方のパターンだとは言い切れないが、スミスが捕手を務めた4月12日と4月19日の試合に対し、バーンズがマスクをかぶった4月25日と5月1日のゲームとの間で配球の比較を行うと、以下のような結果が出ている。


ウィル・スミスの配球対策:右バッターと左バッター

ウィル・スミスの配球対策:右バッターと左バッター


ウィル・スミスのサイン配分―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球

ウィル・スミスのサイン配分―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球


オースティン・バーンズのサイン配分―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球

オースティン・バーンズのサイン配分―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球


オースティン・バーンズの配球分析―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球

オースティン・バーンズの配球分析―左図:右バッターへの配球、右図:左バッターへの配球


 これらの図を参照すると、バーンズがフォーシームの使い方に重点をおいて配球を組み立てていることが窺える。右バッター、左バッター共に、フォーシームの割合が40%を超えており、スプリットやカーブの利用割合にほぼ差がない。一方、スミスは右バッター向けには直球とカーブの使用がおおよそ35%、スプリットは約28%であり、左バッターに対してはフォーシームとスプリットが35%前後、カーブは22%となっている。


 これらのデータをカウントに応じて詳しく見ていくと、両者の配球における微妙な違いがより鮮明になる。



スミスとバーンズ、それぞれのカウントごとの配球法


左端にはスミス、右端に位置するのはバーンズ

左端にはスミス、右端に位置するのはバーンズ


 両捕手は2ストライクまで追い詰めるとスプリットへの信頼を強め、しきりにこれを要求するが、スミスはカウント0-1の段階で、既にスプリットを用いる確率が50%を上回る。バーンズはこのような極端な偏りは見せないし、同じくカウント2-2の際も比較的分散した配球を続ける。


 カウント1-1の状況では両者が異なる配球構成を採る。1-1という均衡が崩れやすい大切なカウントで、スミスは約45%と高確率でスプリットを選択し、加えてカーブの使用率が30%と、2つの変化球で全投球の3分の2以上を占める戦略を取る。一方でバーンズはカウント1-1でも3つの主要な球種を均等に使い、それにカッターを少量組み合わせている。


 これはスミスが山本のスプリットに相当な信頼を置いているのか、それとも山本のフォーシームに対する信用に欠けるのかの符合であるが、推定では後者と言えるだろう。特にスミスがマスクを被っていた4月12日と4月19日の試合では、山本のフォーシーム被打率が.429に達し、平均球速は97.8マイル、多くがハードヒットに分類される。


山本由伸とウィル・スミスのコンビ

山本由伸とウィル・スミスのコンビ


 4月19日のメッツ戦においてもその特徴が明らかだった。フォーシームの平均球速95.3マイルはシーズンの標準値と変わりなかったが、打球平均の初速は99.6マイルにも達し、8回のスイングでは7球が前野へ飛び、内4球は安打となった。最も遅い打球初速でも93.8マイルであり、5回と6回の投球では24球中真っすぐがわずか1球という極端な配球だった。それ以外は、真っすぐのサインが出されなくなっている状況だった。


「しかしながら、ある一定量は投じなければ」とリメマークすることで知られるオーレル・ハーシュハイザーは、自身がドジャースに在籍していた1988年、59イニング連続無失点の記録を達成した偉大な先輩だ。彼に2イニングの間に1球しかフォーシームを投じていない事実について尋ねた際、初めは「信じられない」との反応を示した。しかし、そのデータを目の当たりにすると、「実際そうだね」と納得し、頷いた。



山本のフォーシームとMLB平均値の比較


 逆に、バーンズを迎え入れた4月25日と5月1日の登板では、フォーシームの被打率が.143に下がり、打球の平均初速は83.0マイルに留まった。


 もしこの改善がフォーシームの軌道の変化に起因するとすれば、話は単純明快だ。山本のフォーシームが徐々にその威力を取り戻しているということに他ならない。そこで、以前のスミスが受けた4月12日と4月19日の試合と、バーンズと組んだ4月25日と5月1日の試合での球の軌道データを比較してみよう。


MLB平均値と肩を並べる山本のフォーシーム軌道

MLB平均値と肩を並べる山本のフォーシーム軌道


  • 【指標の説明】


① 回転方向:時計の針が12時の位置を指していれば、左右の投手問わず、安定したバックスピンを意味する。一般に、右投手が投げる4シームでは投手視点で少し右に傾くが、その傾斜が大きいほど、球は右に曲がりやすくなる。

② エクステンション:投手がボールをリリースする際、プレートからどれくらい離れた位置にいるのかを示す。

③ 縦横の変化量:リリースポイント、球速、球種が一定で、一方のボールには回転がない場合と、もう一方が実際に回転している場合に、どれくらいの差が出るかを示す。回転のないボールが重力だけの影響で通過するポイントを基準に、実ボールが通過した地点の差が縦横の変化量を決める。

④ VAA(Vertical Approach Angle:バーティカル・アプローチ・アングル):打者に届くまでのボールの投球角度。地面と平行なら角度は0°となる。より上から投げ下ろすタイプの投手で角度は大きくなる。

⑤ 回転効率:ボールの回転数がどれだけ効率よく影響しているか。回転軸がボール前進方向に対して90度の場合、回転効率は100%となる。0%の場合、回転軸が前進方向と一致し、ジャイロボールのような状態を意味する。この数値は試合ごとに変動しないため、平均値を提示している。


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 データを分析すると、回転方向がやや傾斜し、それに伴って横の変化量が3センチメートル小さくなっていることが分かる。だが、これだけの明確な変化がフォーシームの被打率にこれほど効果をもたらすとは、なかなか納得がいかない。


 山本のフォーシームはそもそも、MLBの平均値にかなり接近している。MLBの平均で縦の変化量はおよそ41cm、横の変化量は18cmだ。対照的に今永昇太(カブス)は、縦で平均47.5cm、横で25.3cmと、平均からボール約1個分の差がある。


 VAAで見ると、山本は平均的な数値に位置し、今永は試合によっては-4.0を下回ることもある。高いVAA数値は打者がボールに跳ねるような錯覚を起こしやすく、山本のフォーシームの数値が今永のようになれば、多くの疑問についても説明がつく可能性がある。



バーンズによるピッチセレクションへの洞察


 さらに詳細に検証を進めると、他の差異が明らかになった。


 スミスが捕手を務めていた場においても、左のバッターが4シームを打つことはなかった。4月12日と19日の2試合の成績は、左打者に対する被打率が.143、右バッターには.714と、質問題でないことが示唆されている。


 そこで分析したのは、スミスとバーンズがそれぞれ右のバッターに対して、どのような場所にフォーシームを求めているかという点だ。


スミスとバーンズによる右バッターへのフォーシームの投球位置の差異

スミスとバーンズの比較図解

スミスとバーンズの比較図解


 スミスが捕手を務めている試合では外角へ投げられる球が少なかった一方で、バーンズが捕手を務めるときは外角に対する投球が頻繁であることが判明した。


 最初にフレーミングの違いがほとんどないと説明したが、外角のコントロールはバーンズの得意領域である。微妙な位置の球でも74%の確率でストライクとしてもらえる(Baseball Savantによるフレーミングの統計より)。実際にボール判定がストライクに変わるケースも見られ、結果的にバッターは振らざるをえなくなる。これがファールにつながる場面もしばしばある。


 本来、相手打者が馴染んでいるフォーシームの軌道であっても、打者が本来のストライクゾーン外の球を振ってしまえば、その配球は山本にとって有利に働く。加えて、バーンズはピッチトンネルを考慮に入れた配球を心掛けているようだ。


 4月6日のカブス戦の一幕を例として考える。その日もバーンズと組んでいた山本は、鈴木誠也との対戦で5回目に迎えた3打席目に、カウント1-1で外角高めに落ちるカーブを投げ、ファウルにさせた後、その次の球を5球目にカーブが曲がり始めたのと同じ高さでフォーシームを投じた。打者としては見逃せばボールになる球だったが、鈴木は前のカーブを思い出し、またまた振り遅れて三振に倒れた。


 このような偽装やストーリーテリングのような配球センスは、バーンズにより強く窺い知れる。これが単に経験の差と整理するには複雑だが、打者からみてほぼ予測不可能なバーンズが、どうしてメジャーリーグに10年以上も身を置いているのか。それが、この「打率.714から.143へ」という変化の根本的な要因の1つと考えられる。


 追記すると、5月7日の試合ではスミスが再度マスクをかぶり、右バッターへのフォーシームの割合が42.3%へと上昇していた。またカウント0-1では60%が直球を選ぶなど、配球にも大きな変化が見られる。特筆すべきは、外角の利用の増加である。