「170キロ右腕」ベン・ジョイスに訊く、米大学野球のリアル ― 佐々木麟太郎へのアドバイスは?
ベン・ジョイスは、大学野球時代に105.5マイル(約169.8キロ)を記録し、2022年にエンゼルスから指名を受けた
サンフランシスコに滞在していたニコ・ホーナー(カブス)は、ある日の1月、スタンフォード大学野球部のデビッド・エスカー監督から連絡を受けた。
「日本のトッププロスペクトが、大学の見学に来る。一緒に出迎えてくれないか?」
オフの間、練習施設や環境が充実している母校、スタンフォード大で練習していたホーナーにとって、これは当然のことだった。
「もちろん」
当日、日本から来たというプロスペクトは、花巻東高の佐々木麟太郎だった。
「体格が大きな選手だった。それがまず第一印象。自分の話が決断に影響したかどうか分からないけど、興味深そうに話を聞いていた」
確かに、決断に影響したかどうかは分からない。佐々木にとっては、もはや見学というより、決断の最終確認の段階だった。
全米でも屈指の強豪校、ヴァンダービルト大学からの熱心な勧誘を知り、当初は躊躇していたスタンフォード大学も、その後、乗り気になった。そうなると、過去にカレッジワールドシリーズを2度制覇し(1987年と1988年)、過去2年間はカンファレンスチャンピオンとなるなど、野球部としての実績も申し分なく、世界大学ランキングで常に上位を占める大学が、佐々木にとって魅力的に映らないはずがなかった。
短大を経由して名門大学に進むルートも。
さて、米国の大学野球はどのようなものでしょうか。前回は、アナリストとして、また、息子が大学野球をやっていた父親として、米国の大学野球の様々な側面についてピッチングニンジャが語ってくれました。今回は、2年前まで大学生だったベン・ジョイス(エンゼルス)に、大学野球の魅力などについて聞いてみました。
取材は2月下旬に行われましたが、ちょうど大学野球のシーズンが始まったタイミングでした。彼は母校の試合を気にしているか尋ねると、「常に気にしている。見られる試合は全部見ている」と即答しました。「先週はテキサスで試合をしていたからそれを見ていた」とも付け加えました。
現時点で(日本時間で3月5日)、テネシー大学は11勝1敗で全米ランキング7位です。ジョイス自身もこの好スタートを予想していました。
「自分のように転校してきた選手の中には優秀な選手がいるんだ。だからどんなシーズンになるのか楽しみだ」
実は彼自身も短大からの転校組です。
彼の経歴を簡単に紹介すると、ジョイスは22年5月1日の試合で、大学野球史上最速の105.5マイル(約169.8キロ)を記録し、全米に名前を知らしめました。その後、2022年のMLBドラフトでエンゼルスに指名され、わずか1年後の昨年5月28日にはメジャー昇格を果たしています。しかし、高校卒業時には、どの大学からも奨学金のオファーを受けることができませんでした。
「いくつかの短大からオファーがあったため、まずはそこでプレーすることにしました。そして、そこでプレーしている間に、(名門大学から)奨学金のオファーをもらいました」
通常、MLBで指名されるような選手は、複数の大学から奨学金のオファーを受けることが一般的です。しかし、ジョイスの場合は、身長も低く、投手としても平凡であったため、野球を続けるなら短大に進学するしかありませんでした。
それでも、「そのルートも悪くない」とジョイスは言います。
「強豪校に進学する前に、2年間じっくりと鍛えることができます。だから、自分にとっては貴重な時間だったと思います」
実際には、彼は短大の1年目にケガに苦しんだが、2年目に身長も伸び、注目を集めるようになりました。ジョイスは、「ヴァンダービルト大、テネシー大、テキサス工科大から連絡が来た」と述べました。彼は子供の頃から好きだった地元のテネシー大を選びましたが、1年目にトミー・ジョン手術を受け、棒に振ってしまいました。しかし、復帰後に100マイル(約160.9キロ)を投げるようになり、ドラフト上位候補に浮上しました。
もちろん、これはテネシー大が大学野球界で最強とされるSEC(サウス・イースタン・カンファレンス)に属していることと、常に多くのスカウト、ファン、メディアなどの注目を集めていることと密接に関連しています。
サウス・イースタン・カンファレンスに強豪校が集まっている理由
なぜSECには強豪校が集まっているのでしょうか。それは、ピッチングニンジャも説明してくれたように、ジョイスも同様に述べています。
「米国南東部には多くの才能ある子どもたちがおり、野球が盛んなのです」
"才能ある子ども"は、幼少期から選抜プログラムに参加し、トップチームに昇格していきます。ジョイスは、「選抜チームに選ばれた選手は、ほぼ1年中試合を行っています。競争が激しいし、SECの大学はどこもプログラムが充実しているため、みんなSECの大学に行きたがります。そうして最高の選手が集まってくるのです」
そして、これらの選手が進学した大学には、プロチームに匹敵する設備が整っています。
「ラプソードやトラックマン、エジャトロニックなどの先端技術が利用できます。また、マウンドにはフォースプレートも埋め込まれています。おそらく必要なものはすべて揃っています」
ラプソードやトラックマンは、投手の回転数や打者の打球初速などを計測し、エジャトロニックカメラは超高性能で、リリース時の手首の角度などを視覚化することができます。フォースプレートは、地面反力を測定するのに使用されます。
したがって、オフシーズンには、紹介されたホーナーのように、大学に戻って練習するメジャーリーガーも多い。ジョイス自身も今年はアトランタに滞在し、スペンサー・ストライダー(ブレーブス)なども通う「メイビン・ベースボール」でトレーニングをしたというが、「大学にも5回ほど足を運んだ」と語った。
このような環境の中で大学生たちは、野球に没頭し、多くはドラフトを考えるようになるが、ジョイスは「毎日が刺激的だった」と振り返る。
「秋に入学して最初の数ヶ月は、練習とともにチームメートとの絆を深めていく。シーズンが始まると、チームメートがライバルにもなる」
彼の場合、チームメート5人と一軒家をシェアし、そこで一生続くような関係を築いていった。
シーズンが始まると、「ライバルにもなる」と述べたが、特にシーズン序盤は多くの選手に出場機会が与えられ、競争が激しい。同時に、大学野球の雰囲気に慣れる時期でもあり、まるでメジャーリーグのキャンプのようだ。
「テネシー大は今週、火曜と水曜に試合があった。平日は異なるカンファレンスのチームと対戦し、今週はノースカロライナ州立大アッシュビル校だった。シーズン初めの試合には1年生が出場機会を得る。こうして、大学野球の雰囲気やレベルに徐々に慣れていく」
授業は高いハードルがあるが、手厚いサポートもある。
佐々木は野球だけでなく、英語での授業にも慣れていかなければならない。
「自分が日本に行って、言葉を覚えながら宿題をやると考えると、できるか不安になる」とジョイスは苦笑いするが、「チューターやサポートがしっかりしている」と語る。「宿題の確認や提出期限のチェックをしてくれる人もいる。内容に問題がないかどうかを確認してくれる」。
それでも、時間管理の重要性を強調し、「自分で時間を使う方法を学ぶ必要がある」と述べました。
「朝早く起きて宿題をすることもありますし、試合後にやらなければならないこともあります。しかし、時間の使い方を学ぶことは非常に重要であり、自習室で勉強する時間を確保することも重要です」
1日をどのように使うかが重要です。そこから始まるということですね。これは非常に重要であり、すべてのことに通じるものであり、佐々木はこのスケジュール管理を通じて多くを学ぶことになるでしょう。
ホーナーも同様に、「授業への適応は、野球よりも難しいかもしれない」と微笑んでいますが、「心配はいりません」と語っています。
「学生をサポートするシステムがありますから。必要ならどんどん頼ってください」
佐々木は春から英語を中心に授業を受け、サマーリーグに招待された場合、米大学野球のキャリアをスタートさせることになるでしょう。