熊本国府、初めての春に託された夢と志
勝利の瞬間を力強いポーズで祝う熊本国府の選手たち
熊本国府は3月18日に開る選抜高校野球大会で32校のうちの一員として挑戦します。各チームが独自の魅力を持ち、その個性は大会主催者が行ったアンケートによって浮かび上がります。
沈着冷静な「勝利守備」
熊本国府高校野球部は春夏を通じて初めての甲子園出場で期待されています。昨秋の熊本大会での逆転勝利は圧巻で、選手たちは持ち前の粘り強さで強豪校を一つまた一つと倒していきました。そして九州大会でも甲子園常連の強敵たちを打ち破り、見事な初優勝を飾りました。早くも先に全国レベルでの経験を積んでいた明治神宮大会では、その勝利の土台が更に固まりました。
山田祐揮監督は、「我々の戦い方はいわば『勝利守備』だと言える」とアンケートに記しています。特に遊撃手の山田颯太選手と二塁手で主将の野田希選手が中心となり、見事なプレーで投手陣を支え、勝利へと導いてきました。
野田希主将は独特の練習方法「マシンによる守備位置固定バッティング」を取り上げています。これは打撃練習をしながらも、守備に磨きをかけるもので、マウンドに設置されたピッチングマシンから放たれる打球に対して、ありとあらゆる状況を想定し守備陣が対応していくのです。この練習の成果が、九州大会でわずか3失策に留まった成績に表れています。
練習時間は平日で2時間と他校と比較して短いものの、その限られた中で鍛え上げられた守備力で、チームは初勝利に向けて挑みます。
追悼し、未来へつながる「森先生」との想い
「将来の夢」アンケートを終えた熊本国府の生徒たち
チームは恩師である森宏氏(通称:森先生)に甲子園での戦いを見せたいと強く願っていました。18年前のチーム創設時から立ち上げに尽力し、昨年8月に84歳で亡くなった森先生の存在は生徒たちに大きな影響を与えていました。相談役としてチームを支え続けた彼が見届けたかったであろう甲子園の舞台です。下田武昇選手は森先生への感謝とその夢の実現を選手たちの言葉を通じて伝えています。
また、熊本地震での体験を持つ選手が多く、部員61名全員が熊本出身であることからも、今回の甲子園へ向けた努力には、地元への思いが強く反映されています。
選手たちの将来の夢について聞かれたとき、プロ野球選手を目指すと回答したのは僅かながらも、多くの選手がスポーツ関係の職業に就くことを望んでいます。これらの回答から見えるのは、知恵と経験を生かして学んだものを未来に活かしたいという熊本国府高校野球部員たちの実直な心意気です。
熊本国府の温泉愛と試練を乗り越えた冷静な守備戦
このチームの選手たちの興味は多岐にわたり、3人の選手が温泉通いを挙げている。熊本は九州でも有数の温泉地として知られており、選手たちはサウナを含めて3名が利用し、疲労回復に利用して精神的にも肉体的にもリフレッシュしているようです。
地元出身の固有の結束力で見せる堅実な野球
難局を乗り越えることが期待される坂井理人投手と植田凰暉投手
なかなか勝利がつかめなかった九州大会ですが、昨年の快進撃で見事神村学園や明豊を下し、初タイトルを獲得しました。そして、その勢いを持って春夏を通じて初の甲子園出場を果たしました。
防御力を持ち味としていますが、右腕の坂井投手と左の植田凰暉投手が二枚看板として存在感を放っています。それぞれのピッチングスタイルで試合の流れをコントロールしていきます。坂井投手は憧れのプロ野球選手、山本由伸の投げ方に影響を受け、左足を低く保つことでバッターのタイミングを狂わせるという点に意識を集中させています。スライダーを主体に多彩な変化球を操り、明豊戦ではノーフォアボールの快投を披露しました。
主にリリーフとしてマウンドに立つ植田投手は、風となるトルネードフォームから破壊力のあるスライダーと速球を投げ分けます。神村学園戦では左打者が多数を占める打線を抑え込み、自信をつけた1失点完投を成し遂げました。冬季の間にはチェンジアップの習得に取り組み、右打者に対する対策も強化しています。
限られた練習時間で研ぎ澄ます闘争心と即戦力
熱い視線を送る二枚看板の一角、植田凰暉投手
九州大会では2桁安打を放ち、一度に大量得点をたたき出す集中力のある打線を誇っています。チーム最高のスラッガー、3番打者の内田海選手は「これまでで最も苦労した」と言及したほどの九州大会の不振から立ち直り、外野への打撃技術を見直した結果、逆方向への一打を多用するように変化しました。また、4番打者の中嶋真人選手は、小柄ながらもミート技術の高さが際立ち、要所をつなぐ信頼感を持たせています。
5番打者の岡本悠生選手と6番打者の山下勝耀選手も共にチーム最高の9打点を記録し、特に山下選手は打率5割5分6厘を驚異の数字で示しており、山田監督は「3番から6番までをクリーンアップと考えている」と語ります。熊本西高校出身で2019年のセンバツにも出場経験のある兄、野田侑を持つ2番打者、野田希選手の俊足を軸に、出塁からクリーンアップまでつなぐことが勝利への鍵になります。
熊本県内出身で構成され、中学軟式経験者も多数いる私立校の固有の特色は、グラウンドまでの遠い距離と限られた練習時間の中、約70%の時間をシートバッティングに注ぎ込んで実践的なスキルを磨いてきました。新たな目標として甲子園ベスト4を設定し、「感慨深い夢の舞台に立てることが待ち遠しい。スター選手はいないが、集中力の維持に努める」と山田監督は静かな期待を膨らませています。地元熊本の誇りを胸に、肥後の精神を持つ選手たちが初の甲子園舞台に臨む準備を進めています。