日本の地元記者が明かす、大谷翔平&山本由伸の両獲りの舞台裏 ドジャースが重視したのは「結果だけではない要素」
今シーズンのオフ、ドジャースは10年間に渡る7億ドルの巨額契約で大谷翔平を獲得した。
年が明けてから、ロサンゼルス・エリアの野球記者を務めるアルデン・ゴンザレスから、米国のケーブルテレビ局「ESPN」の電子版「ESPN.COM」に連絡が入った。
「大谷翔平と山本由伸。この2人との契約により、ドジャースの日本における影響力はどう変わるのでしょうか?」
取材の要請だったが、私たちもまた、ドジャースが大谷と山本を同時に補強した裏側に興味を持ち、相互取材という形になった。
ドジャースが日本での知名度を上げるために大谷と山本を必要としたかと言えば、必ずしもそうではありません。1995年に野茂英雄が移籍して以来、ダルビッシュ有(パドレス)、前田健太(タイガース)、黒田博樹ら多くの日本人選手がドジャースのユニフォームを着てプレーしています。
また、カーク・ギブソンがワールドシリーズで放ったサヨナラ本塁打や、サンディ・コーファックスの完全試合を含む4年連続ノーヒットノーランなど、数々の偉業が記録されてきました。
そのたびに、その歴史は日本にも伝わってきました。そのため、ドジャースという名前は、他のメジャーリーグのチームと同様に、ヤンキースやマリナーズと並んで、日本のファンにとって身近な存在であり続けています。もし「恩恵」という言葉を使うなら、エンゼルスの方がそれをより受けてきたのかもしれません。
大谷からのプレッシャーと新たな視点
この会話を交わした後、まずは大谷の7億ドルという契約総額について、率直な感想を伺いました。ゴンザレス記者は、「正直に言って驚きました」と即答しました。
「なぜなら、昨年のシーズン前、私を含め多くの人が(契約金は)5億ドルほどだろうと予想していました。それでも、信じられないほどの金額でした」
昨年は、シーズン前半ではMVP(最優秀選手)候補と言われるほどの活躍を見せていました。5億ドルの契約が現実味を帯びてきましたが、8月に入ると右肘の靱帯を損傷し、9月に手術を受けることになり、その価値は下がるとの見方も出ていました。
ゴンザレス記者も「(5億ドルの契約は)難しいかなと思っていましたが、最終的に7億ドルで合意に至りました。さらに、ジャイアンツも同額でオファーしていました」
「驚かない人はいないと思います」
その後、ドジャースは山本と12年総額3億2500万ドルで契約を結びました。これにもまた驚かされました。ゴンザレス記者も同意しました。
「ドジャースは資金力があると評判でしたが、これまで大型契約を避けてきました。なぜなら、投資に消極的であり、アンドリュー・フリードマン編成本部長は批判されていました。彼は9桁の契約をほとんどしませんから」
その理由について、フリードマン編成本部長は以前、「FA市場では合理的な考え方を貫けば、常に3番手にしかなれない」と述べています。
契約期間を1年延ばし、年俸を増やすこ
契約期間を1年延ばし、年俸を上乗せすることで、おそらく契約が成立したかもしれませんが、フリードマン編成本部長は常に上限を設け、合理性を重視してきました。彼はドジャースのGMに就任して以来、この考え方を貫いてきました。
ただ、結果として、FA市場でブライス・ハーパーやゲリット・コールを逃し、自らのチームからFAとなったコーリー・シーガーやトレイ・ターナーとの再契約にも失敗しています。
彼らは常に3つのチームの中にいるかもしれませんが、自らが設けたルールに縛られ、最後の一押しが欠けています。それでも、これまで勝ち続けてきたので、ファンの不満は抑えられていましたが、プレーオフでは勝ちきれず、合理的な戦略にも限界が見えていました。
「これらの選手が加わっても勝てる保証はありませんが、彼らはチームをもう一つ上のレベルに引き上げてくれることを期待しています」
その契約には、そうした含みがあるのかもしれません。しかし、ゴンザレス記者は山本の契約に関して、「大谷からのプレッシャー」という観点も持っています。
「大谷の契約の大半が後払いになったことで、ドジャースは好選手を獲得するようプレッシャーをかけられた。これにより、ドジャースは山本のような好選手の獲得を迫られる状況にもなっていた」
資金に余裕が生まれたというよりも、大谷からの無言の圧力が、さらなる大型契約を迫った、ということです。
ただし、過去11年間でドジャースは10シーズンに渡って地区優勝し、11年連続でプレーオフに出場しています。昨年は苦戦が予想されましたが、結局は100勝を挙げました。彼らは必ずしも大谷や山本に10億ドル以上の投資をする必要はなかったのかもしれません。
ゴンザレス記者も「そうかもしれません」と同意しますが、次のように続けました。
「ドジャースは結果だけでなく、彼らに何かを求めています。昨シーズン、ドジャースは世代交代の時期にありました。彼らが勝利を収めたのは、層の厚さがあったからですが、翔平や山本の獲得は勝利以上のものであり、ビジネスの拡大も視野に入れています。市場を日本に広げることで、さらなるリターンが期待されるでしょう。彼らは人気があるため、勝利だけでなく、ドジャースが大谷と山本の契約に見出したものはそれ以上かもしれません」
その視点は、彼自身の企画にも繋がっているようです。
誤報が飛び交った理由
大谷の契約に関する誤報が流れた背景には、いくつかの要因があります。
12月8日に南カリフォルニアニュースグループの記者であるJ.P.ホーンストラがブルージェイズとの契約情報を伝え、その後MLBネットワークのジョン・ポール・モロシが大谷がトロントに向かっていると報じました。両記者は信頼できる記者であり、多くの人々が彼らの情報を信じたため、誤報が広まったのです。
ゴンザレス記者は、ホーンストラとモロシをよく知り、以前は同僚であったため、彼らの報道を信頼しました。そのため、「J.P.ホーンストラが報じた情報なら信じられるだろう」と考えました。
また、SNSの普及により、情報が瞬時に広まるようになり、情報の信憑性が疑われるケースが増えています。今回のように、大谷のフリーエージェント移籍に関する情報が非常に少なかったため、推測や憶測が飛び交い、誤報が生じたのです。
最終的に、大谷の契約が成立したときに安堵の声が上がりました。これによって、誤報が飛び交った理由が明らかになりました。
エンゼルスの将来
一方、大谷を逃し、効果的な補強ができていないエンゼルスについて、ゴンザレス記者は不満を示しています。
エンゼルスのオーナーであるアート・モレノには、大谷を引き留めるチャンスがあったにも関わらず、彼はそれを逃してしまったと述べました。
代理人のネズ・バレロが明かしたところによれば、エンゼルスは大谷に合った契約を提示したにもかかわらず、モレノはそれを受け入れませんでした。
モレノにとっては合理的でないように見えたかもしれませんが、失うものの大きさを考えると、その判断は非合理的であるとも言えます。
エンゼルスのファンは、ドジャースのチケットが高額で入手困難であることに不満を示すかもしれませんが、大谷がプレーオフでプレーする姿を見ることができるという期待があります。
今年こそ、その期待が現実となるかもしれません。